ぶっく3
□星屑の魔女
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私のご飯はこれさと、その人はスプーンで星屑を掬った。銀のスプーンの中にはもう一つ宇宙が出来上がっていて、それをその人は全く気にしない素振りで口に含んだ。そしてその一連の動作をじっと見ていた私に、これは人間の食べ物じゃないからだめだよと、そう言った。
【星屑の魔女】
昔から西の森には魔女が住んでいるのだと言われて育った。魔女は人間を取って食べるもので、中でも子どもの肉が好きらしいという話がどこまで本当なのかは知らない。でもとにかく、森に近寄る者は誰もいなかった。
眼の前のその人は宇宙の入ったスプーンに口をつけてから、まだ視線を外していなかった私の方を見た。その瞳の奥にも何かがキラキラ反射していて、造り物のように綺麗なのに何故か生を感じて怖くなった。なんとなく、あまり長く見ていると何処かに捉えられてしまいそうで私はぱっと目線を逸らして空になったスプーンに移した。
「そんなに怖がらなくてもとって食べたりしないよ」
クスクスとその人が笑う。口元が緩んで目を細めて、まるで人間のように笑う。
「魔女に会うのは初めてかい?」
何も応えなかったけれど、そうかそうかとその人はまた笑う。自分で魔女なんて言っておきながら、男でも女でもない声で笑っている。
「最近の魔女は出不精だからなぁ」
言いながら手元のスプーンをするりと手放した。あっと思うより早く、さっきまでその人の前に広がっていた星屑にスプーンは飲み込まれて、そこを基点にまるで砂時計の砂が落ちていく時みたいに宇宙が収縮して、ついに小さな一つの星屑になった。
「まぁ、君が思ってるより大して特別なことじゃないさ」
出来上がった星屑を右手の親指と人差指の間につまんで自分の目の前に掲げながらその人が言う。その指先が動くたびキラキラと星屑が光っている。
その人はーー魔女、は、暫く星屑を指先で弄んだあとにまたふいにこちらを見てきた。
「君にあげるよ、お土産」
そう言ってすっと指を擦りあげると、星屑が砕けて砂のような光が舞い、そのまま手品のようにどこかに消えてしまった。
「また会おうね、人間ちゃん」
魔女の瞳の中でキラリと何かが光った。全身の力がすっと抜けていくような感覚があった。どこか遠く、宇宙の中で、もう一度何かが光った気がした。
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