私と彼
□卒業する私と
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思い返せば、ほんとに短くてあっけない。こんなものなのか。これでもう、お別れなんだなぁ。
卒業証書を貰って、なんとなく感傷に浸っていたとき。後ろから声をかけられた。
「先輩、」
振り向けば、同じ部活の後輩だった綾瀬がいた。卒業式だったからか、いつもとは違って身なりがきちんとしている。そのせいか少しだけ、雰囲気が違って見えた。
「綾瀬じゃん。どしたの?」
「先輩、俺、」
先輩のこと好きです。そんな言葉をいきなり、ホントに、前触れなく。もしかして雰囲気が違って見えたのはこのせいだったのかも、なんて思いながら、なんて返そうかと考える。
綾瀬のことは好きで、でもそれは恋愛感情とは違う、後輩に対しての、弟に対してもつみたいな好きで。それはつまり――
「…ごめん。あたし、綾瀬のこと後輩としては好きだけど、」
「そうくると思ってました」
「…そっか、ごめん」
「…先輩が好きです」
なにを思ったか綾瀬がもう一度言った。
「だから、」
え、あ、うん、…だから?
「だから、またどこかで会えるといいですね」
3月の風はまだ少し冷たい。それがざぁっと私と綾瀬の横を通り過ぎていく。
向こうで誰かが私を呼んだ。
綾瀬を見る。
ダークブラウンの髪の毛が風に吹かれて少し乱れている。
そっか、これでもう、お別れ、なんだなぁ――
私は綾瀬に「そうだね」とだけ言って声のする方へ走った。
3月の風
(春のにおいが)(鼻をかすめた)
、