私と彼

□花屋の娘の私と
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近所で有名な保育園児。
人々から「ゆうくん」と呼ばれる彼は自分がなにをすれば大人達は自分を見てくれるのか、可愛がってくれるのか、知っているようだ。


「あら、ゆうくん保育園の帰りかい?」

「うんっ!!こんにちはっ!!」


私は密かに、彼は腹黒なのではないかと睨んでいる。特に理由はないけれど、あまりにも「理想の子供」といった感じで、なんとなく気に入らないからかもしれない。


「ゆうくんお菓子食べてくかい?」

「いーの?ありがとうっ!!」


そんなゆうくんには今、お気に入りの人がいる。それは…


「あーっ!!かよちゃんっ!!」


私、だ。


「ゆうくんこんにちは」

「かよちゃん きょう がっこうは?」

「休みだよ」

「そっか。じゃあさ、ぼくといっしょに すなあそびしよーよ」

「んー…いまお仕事中だから、ごめんね?」


今の「ごめんね」の私の言い方ちょっと可愛くなかった?と思い母の方をちらりとみれば、彼女は客の相手をしていた。花束がどうとか言っているので多分呼ばれるだろう。


「花代ーっ!!ちょっと」

「はーい」


じゃあね、とゆうくんに小さく手を振ればぷくりと頬を膨らませる彼。しかし構っている暇はないので母とスーツを着たサラリーマン風の人の所へ向かう。


「これ、贈り物用にラッピングして頂戴」

「了解」


色とりどりの花を丁寧に束ねる。それから綺麗な紙を巻いて可愛いリボンで縛る。真ん中で凛と咲き誇る紫色のチューリップが小さく揺れて、それの花言葉を思い出して「あら、」と考えた。


「奥さんの誕生日なんですって」


成る程ね、と頷けば男性は「口に出すのは恥ずかしいので」と少し照れたように笑う。


きっと、家ではいい夫なんだろうなと思いながら花束を渡し、「ありがとうございました」と、去り行く背中に声をかけた。


「チューリップの はなことばってなに?」


うろうろと店を歩き回っていたゆうくんが興味深そうに尋ねる。そういやこの子まだいたのか。


「色によって違った気がするけど…紫はたしか、『不滅の愛』とかそんな感じだと思うよ。多分そうだったはず」


そーだよね、と母に問えば、そーよ、と返される。

ゆうくんは「ふーん」と呟いてから近くにあった赤いチューリップを両手にとって私に向けた。


「ぼくも」

「へ?」

「ぼくも かよちゃんに愛あげるっ!!」

「あ、え、」

「あのね、おっきくなったらね、ぼくの およめさんになってー?」

「えっ!!」



返事に困る私と真剣なゆうくんを見て、母が一言「あら、ぴったり」と呟いた。





赤いチューリップ
(花言葉は)(『愛の告白』)



ー…



花言葉分からん。

たしかこうだったはず

違ったらごめんなさい

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