私と彼

□メガネな私と
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あぁ神様、もしこれが先日隣の席の豊橋君にポロリと零した「彼氏とか青春ぽくていいよね」っていう言葉に対しての贈り物ならば、あなたはさぞかし私が嫌いなんでしょうね。今頃あなたは私の手が届かないところでニヤニヤと嫌な笑みを浮かべていることでしょうこのやろう。

あーぁ。告白ってもっとドキドキするものだと思ってたのにな。いや、ドキドキしてるけどさ、え、なに、告白されるときのドキドキってみんなこんなこんなもんなの!?冷や汗でるほうのドキドキなの!?おかしいのは私の方なの!?

違う意味でドキドキしている私なんかお構いなしに、目の前の威圧的な彼…矢部 智は両腕に力を込めた。壁に両腕を押し付けられている私の痛みなんか彼はちっとも分かってない。やめてくれ、ホント痛いんだよ。それに君の力は骨をも砕きそうで怖いよ。

あぁそれにもう…君に呼び出された時から恐い+怖い=恐怖っていう式が成り立っているんだよ、私は。レディーは大切に扱えって言うじゃない、女の子は産まれた瞬間からお姫様だって言うじゃないのさっ!!

てゆーかなんで私なの!?不良って学校1の美人と付き合うのがセオリーでしょ。私の愛読している漫画だって最初はメガネだったけど実は超美人でしたっていうアレだしね。え、なに、私にそれを期待しているのかコイツは。メガネとったらいきなり美人に早変わりするとか思ってんのか、矢部君は。…無理に決まってんじゃねーですかぃっ!!美人はメガネかけても美人なのっ!!地味はメガネとっても地味なんだよっ!!

…誰が地味だこのやろう。

なんて1人で頭の中で喋ってたら、目の前の矢部君は徐に口を開いた。

「…てか、なんで豊橋とかと楽しそうにするわけ?」


…怒られたーっ!!え、意味分かんない、なんで私が怒られなきゃいけないのよ。…って、力 力っ!!力込めないでっ!!痛いってば。
てか…え、なんで私嫉妬されてんの!?別に私達そーゆー関係じゃないじゃん。なんでって言うけどあんたそりゃ、豊橋君の方が矢部君よりよっぽど楽しいものっ!!矢部君てばホント怖いものっ!!

あーもう泣きそう。もうホント泣いてもいいですか。マジ泣きしてもいいですか。

本気で鼻の奥のあたりがつんとしてきた頃、いい加減何も喋ろうとしない私に対して苛ついてきたっぽい矢部君はズイッと顔を近付けてきた(まぁもとから結構近かったんだけど)
…これは…もしかすると、もしかして、もしかしちゃうのか!?初めてなのに?それが好きでもない人と?

そうこうしている間も着実に縮まる私と矢部君の距離。あぁ、もう息がかかるほどだ。矢部君はしっかり歯を磨いているのか、全然臭くはないけれど。でもやっぱりこんなやつにキスされるくらいなら豊橋君にされた方が百倍嬉しい。

どんどん近付いてくる顔。尋常じゃない冷や汗…てか…

「手、痛いっていってんじゃんっ!!」

私の怒鳴り声(?)と同時に、私の膝に硬いものが思いっきりぶち当たる。

まぁ正確にはぶち当たったって言うよりぶち当てたの方が正しいんだろうけど。

とにかく、ありったけの力で彼の腰骨辺りに膝蹴りをくらわした私は一瞬だけ緩んだ矢部君の腕を振り払って、普段では考えられないような速さで走り出した。

何度も転びそう+上履き脱げそうになったけどとにかく走る。やっとの思いで女子トイレに逃げ込んで荒い息のまま扉の隙間から外を窺うと、矢部君は追ってきてはいなかった。



そんなことがあった次の日、とりあえず心配していた下駄箱の中にはゴミが入っているわけでも赤い紙がぶら下がっているわけでもなくて一安心。
廊下を歩いている間も別に全校生徒から追い回されたり生卵を投げつけられるわけでもなく、無傷のまま教室の前にたどり着けた。少し油断しながらガラガラと扉を開けるとクラス中が一斉に私を見て、不自然に目を逸らした。あぁそうか、まだあとは机の上やら黒板やらに変なことを書かれていないかどうかが残ってたな…でも黒板は綺麗か、なんて思いつつ自分の席に目を向けた私は、予想外の事態に困惑することになる。


「おぅ、おはよ」

「…え、…は?」



私の癒やしである豊橋君の席には、私の天敵である彼…矢部 智が君臨していた。




神様はよっぽど私のことが憎くてたまらないらしい。





ー…


続きを書けたらいいなと思う。

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