私と彼

□一般人の私と
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キャーッという声を掻き分けながら登場したのは現在私が付き合っている相手。
四角い画面の向こう側の彼…村上くんはにこやかな笑顔を振りまきながらスタジオに立った。

アナ:今日のスペシャルゲストは歌手の村上耀さんですっ!!
村上:いやー…どうも
アナ:村上さんは番組レギュラーの名川君と仲が良いと聞いたんですが本当ですか?
村上:さぁ…どうでしょう(笑)
名川:酷っ!!昨日も一緒に飲んだじゃんっ!!
村上:そうでしたっけ?
会場:あははは
名川:コイツ長く付き合ってる彼女がいるんすけど、なんか彼女が村上のこと未だに「村上くん」って呼んでるらしくて…そのことについて三時間くらい語られたんですよ、俺。
村上:ちょ、馬鹿っ!!
アナ:未だに村上くんなんですか?
村上:いや…まぁその、はい。なんか出会った時の癖が抜けないらしくて
名川:しかも彼女のことめっちゃ自慢するクセに全然会わせてくれないんスよ。なんか、「会ったら惚れちゃうからダメ」とか言って
会場:おおぉっ(冷やかしっぽく)
村上:ちょ、お前もう黙れ(焦)
アナ:そんなに美人なんですか?
村上:や、もうホントあの。止めません?この話
アナ:答えて下さい
村上:えっと、あの…美人てゆーか…あー…すっげぇ可愛い、です。
名川:顔赤っ(笑)
村上:うっせ(照)
会場:ひゅ〜(冷やかしっぽく)(ニヤニヤしながら)
村上:やー…もうホントなんなんすか、これ(赤い顔を隠すようにしゃがみこむ)
アナ:あ、照れてますね(笑)
名川:完璧照れてます(笑)
アナ:さてそんな村上さんですが、なんと今日はそんな可愛い彼女さんと付き合い始めてちょうど5年目の日らしいですね?
会場:おぉーっ!!(拍手)
村上:(バッと顔を上げ)なんで知って…
名川:昨日言ってました
村上:情報源はお前かっ!!
アナ:それにしても長いですねー…そろそろ結婚なんて…
村上:そう、ですね。
名川:コイツ今日指輪用意してますよ
村上:名川っ!!
アナ:じゃあ今日…
村上:まぁ、はい、そのつもりで…
アナ:はい、じゃあこれどうぞ
村上:なにこれって…俺の携帯っ!?なんで
アナ:マネージャーさんの協力で(笑)
村上:い…岩倉(マネージャー)
岩倉:(スタジオの隅で面白そうにぺこりと頭を下げる)
名川:ほら、はやく
会場:電話っ!!電話っ!!(アンコールてきなかんじに)
村上:…ちょ、あの…
アナ:村上さん、時間おしてますよ
村上:…くそぅ…いきますっ!!
名川:いけーっ!!
会場:(拍手)
村上:(ピッポッパッ…トゥルルルル)



ポケットで音を鳴らし始めた携帯にビクリと肩を揺らしてから、そうっと取り出す。ディスプレイに表示されているのは間違えようもなく「村上くん」の文字で。え、なにこれ生放送なの!?なんて今更気付きながら震える手で通話ボタンを押した。


「も…もしもし」
『あ、えっと…俺だけど』
「うん…」
『あー…テレビ観てた?』
テレビの向こう側で手を振る村上くん。
「うん…観てるよ、村上くんが手振ってる」
『あー…ばっちり観てんね』
「ねぇ…さっき言ってたことって…」
『あー…うん。えっと…あの…もし、良かったら…結婚して下さい』
答えるよりも先に涙が溢れた。喉が詰まって声が出ない変わりにこくこくと頷くけれど、電話の向こうにいる村上くんに伝わるわけもなくて。
『もしもし?え、あの、大丈夫?泣いてる?』
「…こ…で」
『え?』
「喜んでっ」
『…っ!!ありがとうっ!!』


途端に電話の向こうとテレビの向こうから、盛大な拍手が聞こえてきた。どうやら私たちの会話は筒抜けだったみたい。こんなに多くの人が祝福してくれるなんて嬉しくて、あとからあとから涙が出てくる。
『お前泣きすぎ(笑)』
「…煩いっ早く帰ってきてっ」
『…おぅ』


「じゃ、」と言って切れた携帯。


彼が帰ってきたら、思いっきり抱きこうと心に決めた





(マイダーリン)(世界で一番)(愛してる)




ー…


あらまぁなにこれ

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