私と彼

□店員の私と
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カランカランと音がした方を見ると、そこには彼が立っていた。

バイト仲間によると大学生なんじゃないかと噂の彼はわたしの顔をちらりと見てからガラス越しのケーキへと視線を向ける。



彼はこの店の常連さんで、いつも同じ時間に来て、同じ会話をして同じケーキを買っていく。



「店員さんのおすすめは?」


彼は顔はケーキに向けたまま瞳だけを私に向けて尋ねた。毎回ここからいつもの会話が始まる。



「プリン、ですかね」
「ケーキ屋なのに?」
「そうですねぇ…でもまぁ、プリンですかね」


ここで彼は少し屈めていた腰を伸ばしてショートケーキをニつ、お持ち帰りで注文するはずだ。だからわたしは紙の箱を組み立てていたのに、


「じゃあ、プリン二つ」
「え、」


驚いて顔を上げれば彼は不思議そうにまばたきを二回してから首を傾げた。


「プリン二つ、ください」
「あ、はい」


なにか釈然としないものを感じながらも並べてあったプリンを二つ、先程組み立てた箱へ入れようとすると「あ、」と声が聞こえた。


「持ち帰りじゃなくて、ここで食べます」
「あ…分かりました。すみません」


箱からプリンを取り出しながら「325円がニつでお会計650円になります」と声をかけると、彼は650円ちょうど払い、レジの横にあるプラスチックのスプーンを二つ手にとって近くのテーブルへと向かった。しかし椅子には座らずにテーブルの前に立ち止まったまま何かを考えるようにじっとプリンを見つめている。

それとなく彼の方を気にかけながら組み立てた箱を元に戻しているとき、レジ台の上に何かが置かれた。


「良かったらどうですか?」


レジ台に置かれたプリンと少し首を傾げた彼とを交互に見る。え、とか あ、とか意味のない単語のあとに いいんですか、と続ければ彼は もちろんですと言って笑った。


「あ…ありがとうございます」
「いえ、一人で食べるより二人で食べた方が美味しいですから」



そう言って笑う彼に、わたしは完全に心を奪われた、のかもしれない。





ー…

修学旅行中、バスの中での更新

わたしはミルフィーユが好きです(^^)

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