私と彼

□お姫様の私と
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「……あら、もしかしてそこにいるのは新人君じゃない」


なかなか気付かない彼に痺れを切らして声をかければ、彼はきょろきょろと辺りを見渡した。
そんな少し慌てたような反応が面白くてクスリと笑う。


「上よ、上」


彼はふいとこちらを向いた。太陽の光が眩しいのか細めに開かれているその瞳は、私と目が合った瞬間に大きく見開かれる。なにしてるんすか、と驚きと苛立ちの混じった声が私の耳に聞こえた。

「見れば分かるでしょ」
「サルの真似っすか」


やはり眩しいのか、左手を額辺りに上げ、顔に影を作りながら彼は言う。

「お姫様をサル呼ばわりするなんていい度胸してるじゃない」
「僕はサルの真似かと聞いただけで、別にあなたの事をサル呼ばわりしたわけじゃないですけど」

新人君はひとつ、溜め息をついてから それに、と続ける。


「御自身に姫だと自覚のある者は木登りなどしないんじゃないですか」
「あら、お姫様だって自分の身を守る為に木登りくらいできなきゃ生きていけないわ」


彼は、なに言ってんだ。と言いたげに眉間にしわを寄せた。


「馬鹿なこと言ってないで早く降りてきて下さい。みんなあなたを探してるんですから」
「嫌よ。下に降りた瞬間命を狙われたらどうすんのよ」
「意味が分かりません」

逆光の為か、私の顔は彼には見えていないようだった。もし見えていたら完全にこの状態を楽しんでいる私の表情を見て、もっと怒っていてもおかしくない。

あまり怒らせるのも良くないかと思い、もう少しこの状況を楽しみたいという欲望を抑えながら飛び降りる体制になったとき、びゅっと強い風が吹いて捕まっていた枝が揺れた。完全にバランスが崩れ、足が滑り落ちる。


「っ……」
「姫様っ!!」


どさり、大袈裟な音の割に痛みがないなと思い恐る恐る目を開ければ私の下では新人君が顔を歪ませていた。


「ごめんなさい!私…、早く医務室へ…」



軽い悪戯のつもりだった。少し困らせてみたかっただけで誰かに怪我なんてさせたかったわけじゃない。でも自分の身勝手な行動一つで周りにどんな影響を及ぼすか考えが足りていなかった。結果自分のせいでまだ配属したての彼を傷つけてしまったことが猛烈に情けなくなり、もう一度、本当にごめんなさい、と言いながら彼の上から退こうとする。すると案外がっしりした腕が私を捉えた。


「ご無事ですか」


耳もとで響く彼の声にドキリとしながら震える声で 大丈夫、とだけ応える。すると彼はまた はあ、と溜め息をついてから言った。


「姫様が危険に晒されたら僕達が命に代えても守ってみせますから…御自身の身を守ることも大切かもしれませんが、もっと僕等を信用して下さい」


新人君は それと、と言いながら腕の力を緩めたけれど、私は顔を上げられない。


「もう木登りはやめて下さいね。禁止です。分かりましたか?」


こくりと頷く。

ああ、私はいま完全におちたな、なんて上手いことを考えながら。




(みつけた、私の王子様)


ー…


木から落ちたのと恋に落ちたの…です 苦笑

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