ぶっく2

□暇潰し開始
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窓側の、前からニ列目。そこは間宮冴子という女の席だ。この間宮冴子という女は、人と関わりを持つのを避けるように、いつも一人でいる。透き通るような白い肌や、少し高めに結われた滑らかな黒髪、全てが彼女のどこか冷たそうな雰囲気を醸し出していて。


今回のテストの結果が散々だったらしく国語の教科担任にこってり絞られた俺は、教室に置いてある鞄を取りに来た。教室には間宮が自分の席に座って本を読んでいて、俺が入ってきたことにも気づいてないのか興味がないのか、ちらりともこちらを見ない。親の迎えでも待ってるのだろうか。まぁ正直どうでもよかったので、俺はさっさと帰ろうと鞄を肩に掛けた、と同時に誰かが教室の扉を開けた。


「おーい和樹、お前携帯置いてったぞ」


見れば、先程まで俺を拘束していた国語の教科担任…河合心太が立っていた。


「おーまじ?ありがと、心ちゃん」


心太先生、だろ?と何度目が分からない返事を、はいはい、と軽く流しながら携帯を受け取る。

この男は俺の近所に住んでいて、俺が生まれたときから何かと面倒をみてくれた(らしい)。俺にとっては兄貴みたいなもので、今更先生呼ばわりするのはなんとなく違和感があって、心ちゃん、と昔と同じ呼び方で呼んでいる。

さっさと帰れよー、とだけ言って心ちゃんは教室を出て行く。言われなくても今、まさに帰ろうとしていたところ、だったのに。


「柏木、お前、河合先生と仲いいのか?」


授業中でしか聞いたことのない声。振り向けば、間宮が本から視線を外しこちらを見ていた。間宮に話しかけられたのなんて初めてで、いきなりのお前呼ばわりにびっくりする。そんな口調、だったのか。


「仲いいっていうか、まぁ、うん。俺んちの近所にあの人が住んでて」

「…そうか」


会話が終了したとみなしていいのか、間宮は黙ってこっちをじっと見ているままの状態で。俺はどうすればいいのか分からなくて鞄の持ち手を意味もなく握り締めた。そのまましばらくして間宮が俺から目を離してから、「あのー…その、」と声を発する。


「あー…河合先生って、付き合ってる人とかいるのか?」


え、と少しだけ漏れた声。間宮は慌てた様子で「いや、あの、ちょっと気になっただけだ」とだけ言って再び本へと視線を戻した。心なしか顔が赤く見えるのは気のせいだろうか。


「え、間宮、あの、変なこと聞くけどさ、」


もしかして、心ちゃんのこと好きなの?俺がそう尋ねると間宮はペラペラと忙しく捲りかけたページから手を離して、ゆっくりこっちを向いた、かと思ったらいきなりばっと立ち上がった。


「お、お前なにを言い出すんだ急に!そんなわけないだろばかっ!!」


普段じゃ絶対見られない慌てた顔。ポーカフェイスはどこへやら。かなり意外で一一面白いな、なんて。


「へー。なんで?どこが?」

「だから好きじゃないといってるだろう!勝手なことを言うな!」

「協力してあげよーか?」


間宮の怒ったような口がは?という形に変わる。ばさりと机の上から本が落ちたが、間宮は気づかなかったのか、拾おうとはしない。


「お、お前、なに言い出すんだ、急に」

「嫌ならいーけど。心ちゃんの好きな食べ物くらいなら知ってるよ」

「そんなもの…!」


…そんなもの…、ともう一度、自分に言い聞かせるように言ってから、あの間宮冴子が、うー、だか、ぬー、だかよく分からないうなり声を上げる。


「い、いやしかし、教師と生徒だぞ?その、普通に考えて有り得ないだろう?いいんだ、わたしは別に。叶えたいなどとは思っていないし」

「残念。お似合いだと思うけどなぁ」

「そ、そうか?」


心なしか嬉しそうな間宮の声。別に本当にお似合いだなんて思っているわけじゃない。こんな見えすいたお世辞を信じるなんて、案外間宮は単純なのか世間知らずか、それともこれが、恋の力、とかいうやつなのか。


「じゃあ、協力、してくれないか?」

「へーい」




こうして俺の、つまらない日常を紛らわす暇つぶしが始まった。




ー…

しんた、です。ところてんじゃないです。

ついでに言うと、しんちゃん、です。

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