ぶっく2
□少女漫画と恋模様
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少女漫画の主人公は、可愛くて、みんなに囲まれ愛されてて、相手はイケメンで、イケメン二人に取り合いとかされて、結局なんやかんやで良かったね、っていう感じで。
それってやっぱり女の子の理想というか夢というか、そうなったらいいなっていうのはやっぱりあるわけで、でも実際そうはいかないのが人生というものでして。
高校時代の花も枯れてくる三年秋のとある日、わたしは猛烈に悩んでいた。
「果たしてこのまま終わっていいものか……」
金木犀色の空の下で窓から見える草花が風に揺れている。最近また日が短くなったよね、なんて思いながら目の前の二人を見れば、二人ともかりかりと数式やらなにやらをノートに書いていて。あれ、聞こえてなかったかな、ともう一度。
「果たしてこのまま終わっていいのだろうか!」
もしこれが漫画だったら、どどん!と効果音がついていそうなほど声を張り上げてみた。今のは流石に聞こえたよね。さぁ話しかけてこい。そんな数式じゃなくてわたしを構ってくれ。
しかしここまでやっても未だに目の前の二人は此方を見ない。なんだろ、これいじめ?二人して私を無視しようってゆーのね!ふん、もういいもん。
ばか、と一言だけ言い放ってから、むくれた顔を机の上に乗せた。へん、なにさ。構ってくれないと死んじゃうんだからな。寂しくした君たちが悪いんだい。一一と、二人のうちの一人、ほにゃが手は動かしたままで視線だけこちらへ向けてにこっと笑った。
「うるさいよ」
「す…すみません…」
お叱りを受けてしまったよ…ちぇ。拗ねたわたしに今度はもう一方、ちょーちゃんが、こっちは手を止めてわたしの方を見る。
「なんでそんなに余裕なの?」
「そちらさんこそ、なんでそんなに勉強してるの?」
「なんでって…受験生だからじゃん」
ちょーちゃんは鞄から教科書を取り出す。どうやらわたしと話をするために手を止めた訳じゃなかったみたいで、教科書を開いたらまたカリカリとやり始めてしまった。
「へん。受験受験て…何をそんなにカリカリしてるんだか。勉強より大切なことがあるのにさー」
「へー?なに?」
ちょーちゃんが棒読みで問いかける。ほにゃは無視してる。
「やっぱさ、高校生活終わるんだよ?あたしゃまだ恋してないんだよ。分かる?恋だよ恋」
「恋ねぇ」
ちょーちゃんは相変わらず棒読みのまま教科書をぱらぱらと捲る。
「ふん。そりゃあ ちょーちゃんはいいよね。告白されたことあるしさ」
「あれは告白じゃなくて気持ちの押し付けだから。迷惑なだけ」
ちょーちゃんは少しむすっとしてから、その話はあんまりしたくないのかノートに集中したみたいだ。
「付き合って下さいって言われたらそれもう告白じゃん。いいなぁ。あたしも告白されたい。放課後の教室でー、こう…いきなりぎゅってされてさ、そんで“お前のこと、前から…”なんて言われちゃったりして!キャー!」
「うるさい」
ほにゃがしかめっ面をする。流石に自分でも舞い上がりすぎたかな、と反省。ごめんねほにゃ。
「そんなに告白されたいの?」
呆れた顔のちょーちゃんが頬杖をついてこちらを見てきた。
「されたい!」
勢いよく返事をしたわたしにちょーちゃんが苦笑いをする。
「え、なに。告白してくれるなら誰でもいいの?」
「誰でもってわけじゃ……あ、でもこの学校の人ならどんと来いかな!まぁ付き合う付き合わないはともかくとして」
「なにそれ。じゃあアイツあげるよ」
あいつ、とはちょーちゃんに突然告白してきたイングリッシュ君のことだろう。なんかいろいろ大変そうだったけど、それでもやっぱりあたしから見たら羨ましくなってしまうわけで。
「でもイングリッシュ君はいらないやー」
選り好みするなと怒るちょーちゃんの声と重なって、それまで黙って聴いていたほにゃがはぁ、とため息をついてからシャーペンを置いた。やば、もしかして本気で怒らせたかもしれない。ほにゃは怒るとまぁまぁ怖いのだ。
「ほ…ほにゃごめ──っ!?」
ほにゃにがっと腕を掴まれた。こここ殺される…!?ここで人生エンドかもしれない!嗚呼素晴らしき我が人生!!フォーエバー!!アイルビーバック!!!
「今日も可愛いね」
ほにゃの見たことない笑顔といつもとは違う低温ボイス(い…所謂男声ってやつ?)にぞぞぞっと鳥肌がたった。え、なになに急にどうしたの!?そんな間に今度は自由だった右手もちょーちゃんに掴まれてもうなにがなんだか──!
「コイツは俺のだから気安く触んないでくれる?」
「ふ、え、…は、え、!?」
睨み合う二人。と、混乱するわたし。なになになに!分からんわからん!!誰か助けてヘルプミー!!!
…と、急にほにゃとちょーちゃんが同時に大きい声で笑い始めた。
「なんであんたが動揺してんのよ」
「こーゆーのがやりたかったんじゃないの?」
「!!」
はぁぁぁ!?
恥ずかしくてめちゃくちゃ顔が赤くなるのが分かる。てゆーかなんだ恥ずかしいって!わたしで遊ぶなばか!
悔しいので爆笑する二人を睨みつけてみるけど二人共笑いすぎてて気付いてくれない。ちょっと!
仕方ないからばんばん机を叩いて猛抗議することにした。どうしてくれるんだもう。この無駄などきどきと冷や汗を返せ!ばか!言葉が出んわ!
「ごめんごめん、そんなに動揺するとは」
いつもなら絶対「机を叩くな」って怒ってくるほにゃが今日はよほど可笑しかったのか笑いながら謝ってくる。でもこの子絶対悪いと思ってないし!ちょーちゃんはちょーちゃんでお腹を押さえて机に突っ伏したままだ。なんだよもう二人して!
「夢叶ってよかったね」
「これじゃイケメンじゃなくてイケウーマンじゃん!一番大事なとこおかしいよ!」
少女漫画と恋模様
(なかなかそう上手くはいかないわけでして)
おまけ→