ぶっく2

□さよならわたし、また会う日ま
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※なんか暗いです。


ー…


「最近、どうしようもなく死にたくなる」

 しんとした空気の中でわたしの声が白い息と共に染みて消える。横目で彼の様子を窺えばいつもと変わらない無表情のままで。これは無視されるかなと思い前に向き直したころになってやっと「そっか、」というやけにあっさりとした返事が返ってきた。

 そっか。ってそれだけ?むっとしたのがバレないようにマフラーで口元を隠す。彼は相変わらず無表情のまま自分の吐き出す息が溶けていく様を見ている。

 考えてみれば先程の返答は実に彼らしかった。むしろ、なにかあった?とでも聞いてきたりしたら、わたしはきっと困惑しただろう。彼がそんなこと言わないのは分かっていた。分かっていたはずなのに、なぜだかむっとした。

 わたしは多分彼に心配して欲しいのだ。死にたいと思うのは本当。いや、本当は死にたいんじゃなくてこの白い息みたいに跡形もなく消えたいんだけど、流石に今の世の中人が簡単に消えるだなんてそんなことは無理だから仕方がない。仕方がないから、死のうと思った。でもそれを彼に言う必要などない。彼が答える必要もないし、それを聞いてわたしがむっとしたりするだなんて、完全にお門違いというやつだ。これはただの甘えだっだ。こんな自分が嫌だった。


「わたし、今日死ぬよ」


 別にむきになって言ったわけじゃない。彼に対する脅しでもない。じゃあ何かって、ただの宣言だ。今まで死ななかった自分と決別するためにもう後には戻れない状況を作りたかった。彼はやっぱり無表情のままで。今度は最初から返事なんて期待していなかったわたしの耳に「なんで」とわたしではなく溶けた息に向かって言った彼の言葉が届いた。

 予想外の彼の言葉に息が詰まる。でもここでわたしが思っていることを全部吐き出したりしたらわたしはきっと生きたくなるだろうなんて根拠もなくそう思った。今あるこの死にたい気持ちも全部吐き出して無くなってしまいそうだった。でもここで一時的になくなってもどうせまたすぐにこの気持ちが積もるのは分かりきったことで。今までもずっとそうだった。でも今日は違う。今日で終わりにしたかった。だから何も言わずに立ち上がった。彼はまだ溶けた息の先を見つめている。


「…、」


 最期の言葉を、と口を開くけれど何を言えばいいのか分からなくてそのまま立ち去る。伝え残したことなんて何もない。唯一の心残りと言えばわたしが死んだとき彼が一体泣くのか笑うのか、それともやっぱりいつもの無表情のままなのか、それが見れないことだ。まぁでもこればっかりはどうしようもないのでわたしは静かに意識を手放した。





 さよならわたし、また会う日まで。
もしまた人間に生まれることがあったなら、その時は、




(もっと上手に生きたい。)

ー…


なんだなんだ、暗いな。

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