ぶっく2

□で?
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 目を開けた時視界はやけに霞んでいた。目を擦るために右手を上げようとするがそれは叶わず、力が入らず僅かにぴくりと薬指が動いただけで。意地になって何度か繰り返すがやはり手の感覚は感じられないので諦めて力を抜き少し息を吐く。ピッピッと規則正しい音がぼやぼやした脳に聞こえた。


――どこ、ここ


 死後の世界にしてはやけにすっきりとしている。ぼやけた視界が徐々に焦点を定めクリアになり最初に目に入ったのは見慣れた黒髪で、それが何か分かったときわたしの視界は再び霞んだ。


「―…調子は?」


 なんで、と声にしたいのに出来なくて息だけが漏れる。ついでに溜まった涙も零れて、それがなんだか悔しくて。


「どーした?」


 長い指がわたしの涙を拭う。その顔はやっぱり無表情で、それが今度は嬉しいのに、悲しい。


「―…あたし、生きてる…」


 涙を拭い終わった彼の指が今度はわたしの髪をくるくると弄ぶ。そうしながら――やっぱり表情は変えずに――さぁ…?と何故か曖昧に応えた。


「…なんで、」

「何が?」


 なにが、じゃないよ。と頭には浮かべながらも声に出さなかったのは多分、嗄れたお婆ちゃんのような声を彼に聞かれたくなかったからだろうと気付いて、嫌になった。いつの間にか感覚の戻った両手は、それでもまだ幾らかはピリピリと痺れを残しながら彼からわたしの不様な顔を隠す。――馬鹿みたい。自殺しようとして病院に運びこまれるなんて。再びじわりとこみ上げる涙を必死でこらえながら、あの嗄れた声を放つ。


「もう……最悪」

「死にたかった?」

「当たり前じゃん」

「じゃあ死ねば?」


 僅かに上げた手の隙間から彼を見れば、珍しくその口角が上がっていて。なに笑ってんの、と怒る前に彼が言い放つ。


「まぁ、俺が死んだ後にしてね」

「……なにそれ」

「そのままの意味だけど」


 あ、俺老衰で死ぬつもりだから、といつの間にか戻った無表情で言い放つ彼に、じゃあ最後を看取らなきゃいけないじゃん、なんて返したわたしには もうとっくに自殺願望なんて無くなってしまっていて。こんな単純な自分が嫌いだったハズの自分も どうやら彼には勝てなかったみたいだ。




単純なわたしに嘲笑と祝福の杯を






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