眼鏡少女
□PLEASE GIVE ME YOUR LOVE
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エレベーターまでは意外と近かった。ただ、ドアとドアの間隔は広い。
ここが十分立派なマンションであることが容易に分かった。
エレベーターの表示によるとここは26階らしい。
凄まじい高さだな。
地上に降りなければ、と迷わず一階を押す。
エレベーターは非常に静かに降りた。
無音だった。このエレベーターもハイテクなようだ。
一階は広い割に無骨というか殺風景だ。
そこかしこにハイテクな空気を漂わせているが、人工的で味気ない。
玄関の自動ドア近くに、30階までの住人のポストが壁一面に敷き詰められていた。
その逆隣に管理人の部屋があった。それも病院の時間外訪問の受付みたいに殺風景だ。
今、窓口は薄肌色の使い込まれたカーテンが引かれてある。
しかし窓口を閉め忘れたのか、テレビの音が漏れでた。
「やっぱりKOHはやってくれますね。彼こそ英雄だ!!」
芝居がかった興奮気味な口調の男性の声。テレビ独特のデジタルのノイズに混ざっているから管理人の声ではないだろう。
しかし、まってくれ。
キングオブヒーロー?
聞き慣れたようなフレーズ。どこで聞いたんだろう。ヒーローだなんて、いるわけないのに。
アナウンサーは、何を言ってるんだ。
なにかの映画だろうか。
「スカイハイの活躍もさることながら…」
そこからよく聞いていない。
スカイハイ?
あれ?あららら?
あぁ、やっぱこれ深夜だしタイバニの宣伝かな。
知ったかぶりな口調で、いかにもアニメなんて見ないような奴らが宣伝する、あれだ。
気にくわないな。
まぁいっか。とにかくここを出よう。
夢だからだろうか、なんだか奇妙な感じがする。
なにか、しっくりこないんだよな。
…いっか。
マンションを出てすぐの道路の向かい側の歩道にバス停がある。
そこになら、地名が書いてあるはずだ。
しかし、深夜なのに、信号機を使わないと渡れないなんて。
田舎に住んでいる私からしたら考えられないな。
この信号機も近未来的だし。だが、ここは海岸に建てられた土地らしく、すごく海が近い。
ピカッと信号機に青がついた。
重たくて腕がつりそうだが、両腕の筋肉をフル活用して、コロコロを引いて道路を渡る。
そして、バス停の時刻表をみた。
えーっと…?
あれ、これタイバニのファンが作った看板か?
シュテルンビルトだなんて。メダイユ行きとか、聞いたことないんですけど。
なんだよ、帰れないじゃん。
…帰れない?
そうか、私は無意識に帰ろうとしてたんだ。
交通手段を探してた。ここから、故郷へ繋がる場所を探していたんだ。
違うのか。
バス停はなしか。
そのとき、目の前を大型トラックが横切った。
シュテルンビルト株式運送会社ホワイトキャットジャッキー。
クロ○コヤマトにしようぜ…
じゃなくてさ。
「嘘だろ…」
携帯を開いて、気がついた。
私の指がアニメ調になっている。
そうだ、携帯になにか情報が入っているはずだ。
まったく嫌にリアルな夢だな。
プロフィールを開いた。
シュテルンビルト出身、紫・アリステア・深雪。
十六才。
アリステア?は?
私はこんなミドルネーム入れた覚え、ないぞ。
住所…サムソンビル26階126ー2601
慌てて振り返ると、見事サムソンビルと書いてあった。
しかし、英語だ。
幸い私は友達にフィリピン人がいるので、日常会話くらいなら大丈夫だ。
よし。とりあえずあそこが家なのだから、一旦この荷物を部屋に置こう。
すべて、それからでも遅くない。