眼鏡少女

□The slip of the tongue of the catching a cold boy. (風邪引き少年の失言)
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The important thing which I have dropped.
(落としてしまった大切な物)



拾いに行くんだ。過去と、新しい自分を。






かったるい入学式が終わった。

校舎はイギリスと比べると狭いけど、やっぱり俺に馴染む。

なかなか広いし新しい。

制服っていうの、なんか新鮮。

こんな息苦しいなんて聞いてないがな。学ランの首周りと肩がキツい。

帰国してまだ数日しか経ってないから、周りで日本語が話されていることにすら違和感がある。


初々しい会話が聞こえてきて、耳を澄ませたり目を向けたりしてみる。

君、名前は?とか。どこの中学出身?とか。

なんとか中のなんたら君って知ってる?とか。

生徒はみんな浮き足立ってて、ワクワクしてたりソワソワしてたりして、初々しい。



そういう空気が、苦手だ。

晴れやかに澄み渡る空とか鳥の爽やかな鳴き声とかが、清々しさを助長してる。

キャピキャピとお喋りする新入生の声とか。

すこぶる苦手だ。

ガクセイ、ガッコウ、ブカツドウ。

帰らなきゃ、気分悪くなる。

苦虫を噛み締めて、真新しい上靴から履き慣れた靴に履き替えた。

改めて校門までの通路を見ると、そこは人でごった返してた。


ずいぶん騒がしいと思っていたが、まさかこんなに勢いがあるとは。



部活動勧誘である。

目の前が部活勧誘と勧誘される新入生で塞がれている。

家に返すまいとしてるようだ。

あっちにはこんなの勢いなかった、気がする。

あっちっていうのは、イギリスな。



自信をもって勧誘している辺り、きっと部活が楽しいのだろう。

部員が増えて困るのは金くらいからかも。

利点はあるがまったく問題はないから。

不利な点を強いて言うなら、やり方を教える人員を多く割かれるくらいか。


それにしてもむさ苦しいな。

周りを見渡して隙間を探していたその時だった。
俺の目の前を横切った色素の薄い奴が、勧誘の輪をするりと抜けていくのが見えた。


すかさずそいつの後ろに追いつき、ひっついて歩いた。



そいつはまるでどう動けばこの人混みを抜けられるか完全に把握しているみたいに、するする人と人の間の僅かな隙間を縫うように通り抜けている。

まったく声をかけられないどころか、存在すら認知されてない。


あいつは、何者だ?

呼吸だとか身動きの布擦れの音が霞んでいる。

近くにいるのに、はっきりと見えるのに消えてしまいそうだ。

音が無いわけじゃない。

周りに紛れてるんだ。

カメレオンみたいだ。

そのカメレオンのおかげで校門をくぐれたから、感謝をすべきだろうが。
彼が通ると誰も知らないうちに道が出来ていくのだ。


凄い奴だ。


脇道に入ったそいつの後ろ姿を食い入るように見つめ、ようやく俺も帰路についた。
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