眼鏡少女
□The slip of the tongue of the catching a cold boy. (風邪引き少年の失言)
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入学式が終わってすぐ、オリエンテーションのようなものがあって、早速授業が始まった。
教師の面子はまぁ…微妙だな…。
数日して、少しずつ授業フルの時間割に慣れてきた。
日本人に囲まれているとやっぱりホッとする。
イギリスといえど日本人に比べればいろいろとダイナミックで大雑把だからな。
向こうは日本より数段上のフレンドリーさがあったし、大抵は気にしない精神だからなんとなくでやっていけてたな。
わりかし友人関係もざっくりしてて、楽ではあった。
だが日本人は繊細で根っからのシャイなので、3日で打ち解けるのは当然不可能だ。
特に俺は。
休み時間に少しずつ出来ていくトモダチの輪に入り込むなんて、コミュ症気味の俺には無理。
クラスで取り残されてる感じが早くも出てきた。
近づくなオーラが出ちゃってるのは分かってるがな。
…まだあの日々の感触が拭えないから、友好的にとか無理だわ。
孤立してる感じが、嫌に懐かしい。
だから屋上で授業を二時間サボってみた。
現文と英語。
一年留学したくらいじゃ、鉄壁の読解力は落ちない。
現文は成績が上がりづらい教科だが、下がりづらい教科でもある。
そんな感じで、俺は少しの考え事をしながらぼーっとしている。
日本のガッコウっていうのは、いろいろ思い出させてくれますな。
…屋上のタンクの上の方にいた、あいつの気配とか。
けれど、今はもうタンクの上にあいつはいない。
屋上のど真ん中で寝そべる黒髪ワカメの後輩もいない。
もしも彼らがいたあの頃のままでいられたなら、どんなに良かったか。
屋上のすぐ下が大きなテニスコートで、テニスのスーパープレイがまた見られたら。
どんなに、どんなに良かっただろう。
でももう二度とそれらは有り得ない。
次会うことがあれば殺されそうなくらい嫌われてるから。
彼らは、長年一緒にいた俺よりも新米のマネージャーを信じた。
彼らは俺を裏切った。
俺の心も身体も何もかもぐちゃぐちゃになった。
最終的には俺の生きがいだったバスケにすらも、大きな傷を残して決別。
三度目の惨劇に、俺の精神はもう耐えてはくれなかった。
あの日を思い出すと、全身の骨が軋むようだ。
痛みの記憶も蘇る。
そうだ、まだ終わっちゃいない。
なにも、終わっちゃいないんだ。
過ぎ去った過去なんかじゃない。今なお、深く深く切り刻まれて血を流してる傷がある。
忘れられるわけない。
一生忘れない。
赦しはしない。
でも、もとの関係に戻れたら。
こんなことがなくて、あのとき俺を信じていてくれたら…なんて、馬鹿馬鹿しい。
もうこんな思いは二度としたくない。
チームワークをとれるくらいの仲でさえあれば、本当の仲間である必要はない。
裏切られたくないから親友は作らない。
作れない。
楽しかった思い出とも、決別してしまわねぇと。
県外だし、もう二度と会うこともないだろうから。
そう思った瞬間に、締め付けられた心を無視して。
過ぎてゆく雲の白色に、銀色への思いをのせて。
さようなら。