君をおとなにする方法。

□1.美雨ちゃん
1ページ/14ページ

 


 志望理由は『子供好き』だったから。


 はっきり言ってしまえばそれだけだった。


「――…どうしても羽留谷(はるや)大がいいのか」


 狭っ苦しい進路指導室で俺の目の前に座る担任は、今年50になるというその無骨な顔を苦虫を噛み潰したように歪め、溜め息混じりに呟いた。


「はい。羽留谷大じゃなきゃ受けません」


 185センチの高身長と料理くらいしか取り柄のない俺は、高校三年の最後の進路調査で、最初からその意見を貫き通した。


「お前の成績なら、もっといい大学に行けるだろう。何でまた、羽留谷大なんだ」


 担任は俺の成績表に目を落とし、それを誇示するようにひらつかせる。

 頑として、そこしか受けないと言う俺に、某有名大学を推していた担任は嘆息して言った。

 羽留谷大と聞いてもピンと来ない担任に、俺は幾らか失望を覚えながらも自分の希望を伝える。


「――俺、幼稚園教諭になりたいんです」

「…幼稚園教諭?」


 担任の眉根が寄る。


「教師になりたいなら、何も羽留谷大じゃなくたって――」

「教師じゃなくて、幼稚園教諭。幼稚園の先生ですよ! だから、羽留谷
大がいいんです!」


 煮え切らない態度に痺れを切らし、俺はまくし立てた。

 羽留谷大には、この辺では有名な幼児教育学科があり、一般教育科目から専門科目まで幅広く履修でき、なおかつ専門学校並みの実践的カリキュラムも組まれている。

 出来れば体力の続く限りこの仕事を続けていきたい俺としては、後々のことも踏まえて、1種の幼稚園教諭免許を取得しておきたかった。

 なので、専門学校並みに幼児教育について学べる羽留谷大学が一番最適だと思ったのだ。


「…何でまた、幼稚園教諭なんだ」


 呆れたようにボヤく担任は、どうやらどうしても俺を某有名大学へと進学させたいらしい。

 でも生憎、そこには俺の行きたい学科は無いし、何より、担任教師の天狗の鼻を伸ばす為に自分の希望を曲げるつもりもない。


「――何と言われようと、俺は羽留谷大しか受けません。これは俺の人生であって、先生の人生じゃないんです。後で後悔することが解ってるのに、先生の面子を保つ為だけに俺に人生の選択を誤らせるなんて、先生だって本望ではないでしょう?」

 にっこりと笑んでみせると、図星を突かれたらしい担任は、バツの悪そ
うな顔で舌打ちした。


「――…全く、お前には敵わんよ」

 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ