短編
□ニキビ。
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『鼻の頭にニキビが出来ると好きな人と両想い』
…なんて、嘘っぱち。
先週の終わりくらいから私の鼻の頭に突如出現した真っ赤なニキビは、痛みと恥ずかしさこそもたらしたものの、私の恋を成就させる力なんてこれっぽっちも持ち合わせてはいなかったのだから――。
放課後。
西陽の射す音楽室。
黙りこくって俯く男女。
女生徒は恥ずかしさに顔を朱に染めながら、震える声で言った。
『先輩が、好きです』
男子生徒はそれを聞き、気まずそうな顔をした。
『…ごめん、俺…今誰とも付き合う気ないんだ』
こうして、その女生徒の恋は見事、当たって砕けたのだった。
…乙女心と鼻の頭に、痛みと恥ずかしさを残して――……。
「…っうわあぁぁん!!」
「よしよし。よく頑張ったよ、笛子は」
失恋の悲しみに泣きじゃくる私を、親友の藍が慰めてくれた。
それでもやっぱり、悲しいものは悲しい。
痛いものは痛い…。
「…は、鼻の頭にニキビが出来たら、好きな人と、両想い〜だなんて…っ…真っ赤な嘘じゃあぁん!!!」
藍の部屋のクッションに顔を埋め、私は苦情を洩らす。
ピンクでハートのそれが憎らしくて、涙や鼻水が付くのもお構い無しで。