短編

□カラフル*キャンバス【下絵編】
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「…好きだ…」


 突然呟かれた言葉に、驚いて隣を見ると、気持ち良さそうに眠る橋本くん。


 …なんだ、寝言か。

 ほっとしたような、…ちょっと残念なような、…変な感じ。


 …ッああー!
 もう! 集中集中!


 私は下がりかけていた右腕を持ち上げ、絵筆を握り直した。





 中学三年の時に、何気なく見に行った市の美術展で衝撃的な出逢いをした私は、それまで学校の授業でしか描いたことのなかった絵に興味を持った。


 あの美術展で見た絵のような、あんな絵を描きたい!

 その情熱だけで美術系に強い高校へといきなり進路を変え、何とか入学までこぎ着けた。

 だからといって、いきなりド素人中のド素人の私が、あの絵のような作品を描ける訳もなく。

 美術部に入部した私は、とにかく毎日毎日、真っ白なキャンバスを絵筆で汚した。


 そんな私の隣の席で、絵筆を握ったまま器用に眠り込んでいるのは、同じ美術部員の橋本くん。

 クラスが違うから、部活でしか会わない。

 だから実は、あまりよく知らないのだけど…。
 

 何でかな…?

 何故か妙に気になるの。


 橋本くんの描く絵はいつも支離滅裂で、一体何を描いているのか判らない。

 きっと、そんなところが私と似てるからかもしれない。

 
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