君をおとなにする方法。
□1.美雨ちゃん
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――…だからこそ、もっとレベルの高いところを受けて欲しかったんだけどな、と呟いて、ほんの少し寂しそうに微笑した担任に、俺は思わず目を丸くした。
先生が俺のことを買ってくれていることは嬉しく思った。
…それでも、それは俺の希望を変えるまでには至らなかった。
結局、俺は自分の希望通りに羽留谷大を受験し、合格。
四年間の大学生活を経て、この春、無事に幼稚園教諭の免許を取り卒業した。
――そして、ついに今日。
初めての採用試験に合格した、私立みかづき幼稚園の先生として、第一歩を踏み出したのだった…――。
「…あじゅませんせーっ」
可愛らしい声に呼ばれて振り返った俺は、駆けてくる園児達の姿に笑顔になった。
どうも、子供達には俺の『東(あずま)』という苗字は発音しにくいらしく、ひとりが言い間違えたのをきっかけに、みんなで俺のことを『あじゅま先生』と呼ぶことにしたらしい。
「先生、あっちで一緒にだるまさんがころんだやろー」
「よーし、やろう」
俺が担任する年長さんもも組の園児達に手を引かれ、園庭にある滑り台へと向かう。
途中、見慣れないデカい男の先生に他のクラスの子供達が口をあんぐりと開けて俺を見上げているのに苦笑しながら、目的地である滑り台で待ち構えるクラスの子供達に目を向けた。
…ひいふうみい…、ほとんど全員居るかな?
「先生、鬼ねー」
俺の手を握っていた女の子が、俺を仰ぎ見ながら振り返った。
ツインテールにした、毛先がくるっとカールした色素の薄い長い髪が揺れる。
名前は確か、如月エリカちゃん――お父さんがアメリカ人の、ハーフの子だったな。
「あのね、こーやってここに顔をくっつけて、だるまさんが転んだーって言ってね」
俺を滑り台の脚に押し付けながらはしゃぐエリカちゃん。
その隣に、おかっぱ頭のほんわかした花田結子ちゃんと、前髪まで一緒に纏めてポニーテールにしたクルクルの天然パーマがトレードマークの麻生千鶴ちゃんが並んだ。
「エリカちゃん…」