赤と黒
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そのどうにもならない苛立ちや葛藤が顔に出ていたのだろう。
「難しい顔してるな。何か悩み事か?」
キラーだった。
「……私、今黒豹姿だよね?」
「そうだな。いつも通りだな」
「表情なんて、わかるの?」
「わからないものなのか?」
「……キラー、すごいね」
黒豹の表情を読み取るキラーに驚きながらも、アンヘルは首を振った。
「何でもない」
「そうか」
この緩やかな感じがアンヘルには心地良い。
確かに、キラーになら話してもいい誘惑に駆られる。
(なんでだろ?)
キラーだってキッドに負けず劣らずの怖い外見、悪名だ。それなのにキラーはなぜかアンヘルを落ち着かせる。
(キラーだって、海賊のはずなのにな)
キラー以外にも、キッド海賊団には何人か、アンヘルが多少心を許せるクルーがいる。
そのことも、アンヘルの海賊に対する恨みの気持ちを揺さぶる。戸惑いの種だ。
(キラー達のせいだ、なんて言えない)
誰にも言えない苦しみや一人で抱え込む戦いは、アンヘルにとって今に始まったことではない。
アンヘルはこの状況をどうしたらいいのか考えた。
(そうだ……。せめて、少しでもリキュール海賊団の情報が手に入れば……。このマンネリがダメなんだ。海賊への復讐の気持ちを、呼び戻さなきゃ!)
ここ最近は波も穏やか、海賊や海軍の襲撃もなし、ただただキッドが煩わしいだけの日々だ。
「あっ、アンヘル! てめえこんなとこにいたのか!」
「うわ」
さっそくキッドのお出ましだ。
「まだ安静にしてなきゃダメなんじゃないのか? ああ?」
ただでさえ何もしてなくても顔が怖いのに、さらに怖い顔でキッドは睨みをきかせてきた。
「ふん。もう元気に動けるんだ。あれ以上じっと寝てたら、体がなまってしょうがないね」
黒豹のアンヘルは、じとっとキッドを睨み返す。
「黙って寝てるわけにはいかないんだ」
アンヘルはキッドを見ているようで、その先の水平線を見ているようだ。その目に鈍い炎が燃え上がる。
「だからって、病み上がりなんだから無理すんな」
「…………」
キッドの顔が少し穏やかさを取り戻す。
キッドがこんなにもアンヘルに突っ掛かってくるのは、心配しているからこそなんだと、アンヘルにはわかっていた。