夢物語
□巧州国王伝記 陸
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巧麒と別れて幾年か経った。
もちろん零咲はそんなこといちいち気にはしていない。
鍛錬と学問、たまに雁に遊びに行く。
そんなことを繰り返し過ごしてきた。
そして今は、朔緋の命で戴に来ていた。
「寒ぃ…」
戴は北国だ。
真冬とはいかなくともまだ春には遠い。
今回は珀牙に乗らずに自分で船を使って乗り継いできた。
戴は王が不在のままだ。
泰麒が帰ってきて10年。
それでも力を失った泰麒では王を探すのに手間取っている。
王は死んでいるのではないかと各国での噂があるが、零咲は生きていると考えていた。
理由の一つは、泰麒がまだ探しているから。
麒麟にとっても最初の王は思い入れがあるというが、麒麟は結局天に支配されている。
その彼がまだ探しているということはまだ王は生きているのだろうと思う。
二つ目の理由として、朔緋がそう言っているから。
彼女は自分にとって絶対であるといって言いし、それに、彼女が予測や想像でものを言う人ではないということを知っている。
(妖魔が多いなぁ。)
戴への船は月に一度運行されればいいほうである。
今回の船は三ヶ月ぶりだと言う。
船を見渡してみると、船乗りが8人。
乗客が自分を含め11人。
中には子供や女がいた。
「坊や、戴に行くのかい?」
話しかけたのは老夫婦。
「そう。
あなたたちは?」
「私たちも戴だよ。」
「何をしに?」
「…息子夫婦がね、いるんだ。」
「…そう。」
「…生きているといいんだけどね…」
「…望みを捨てちゃいけない。
親はいつだって、子供を信じるものでしょう?」
死んだ目をしていた夫婦が驚いたように目を見開いた。
恐らく、彼らは死を迎えるつもりで戴に行く気だったのだろう。
老い先短い命を、少しでも息子の近くで迎えようとしていたのだろう。
「君は、何をしに行くんだね?」
「…分からない。
行けと言われたからだけど、きっと何か意味があるんだと思う。」
「妖魔の出る戴に君のような子供を!?」
「ただの子供なら、行けとは言わないだろうね。」
くすっと笑い、腰に携えた剣に触れる。
老夫婦とはその後も少し会話をした。
というより、彼らが息子の話を語っているのを聞いていた。
その時の彼らの顔はとても生き生きとしていた。
「!、二人とも、中に入れ。」
「え?」
「全員、船内に退避しろ!!」
突然叫んだ零咲に、乗客も船員も驚いた。
驚きで体の機能が停止している老夫婦をとりあえず強引に船内に押し込み、甲板に残っている人間を次々と誘導する。
そして、
「妖魔だーーー!!」
黒い影が、空と海に見えた。