夢物語

□巧州国王伝記 捌
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「ただいま〜。」

「おかえり。」

「珀牙、師匠は?」

「今は…」

   ガシャンッ

「…もういい。」

家の奥から聞こえた、何かが割れる音。
帰るたびにこれでは、おちおち家を空けることもできやしないではないか。
そう思いながら零咲はため息をついて中へと入った。

「師匠、ただいま。
何割ったわけ?」

「おかえり。」

彼女の手の中には白い器の破片。

「それっ、俺の茶碗じゃん!!」

「元な。」

「師匠が割ったからだろうが!」

「形あるものはいつか壊れる。」

「然も当然、みたいに言わないで!
数十秒前にはまだ形あったでしょ!
つーか、それまだ数回しか使ってないのに!!」

「また買えばいい。」

「買いに行くのは俺だけどね!
あ〜もう、師匠座ってていいってば。」

「暇。」

「駄々こねないでください。
可愛いから。
慣れないことすると怪我するし。
ほら、行った行った。」

「…巧麒には会えたのか。」

「だから帰って来たんでしょ。
じゃなきゃ師匠が怖くて帰って来れないって。」

「…巧麒に何も言われなかったのか?」

「別に?
つか気ぃ失ってそのまま置いてきた。」

「ひ弱な。」

「身も蓋もないね。」

師匠の言葉はいつも辛辣だ。
事実だから何も言えない。

「…朔緋。」

台所の入口付近に立っているのは珀牙だ。
眉間にしわを寄せて真剣な表情をしている。
何かがいつもと違うらしい。
けれど、それを零咲は気にしなかった。
珀牙がどんなに真剣な表情をして朔緋に言っても、それがどんなに深刻なことであろうと、朔緋が解決できなかったことはない。
よって、自分には関係のないことだと決めつけた。





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