夢物語

□巧州国王伝記 弐
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ここは蓬山。
12年前、ある事件が起きた。


景王が立ち、峰山の捨身木に金の実がなっていた。
女怪は11種類もの生きものが混ざっている、名を「流火」。
木下で動かずにずっとその実を眺めていた。
そして、天が荒れ、大地が揺れ、蝕が起きたのだ。塙麒の卵果が流された。

そして、塙麒は七年もの間行方知れずとなっていたのである。
だが、塙麒は偶然にも延麒によって発見され、蓬山に帰ってくることができた。


しかし、このことは蓬山の秘密であった。
国王などは塙麒が一度流れ、戻ってきたと言うことは言わずとも入れている。
それでも、これは「秘密」なのである。


塙麒自身にあちらの記憶がないために…。



「流火。」

女怪の名を呼ぶ少年は現蓬山公、塙麒。
12歳。
珍しい、白麒麟である。
銀のような光りによって色の変化する鬣を持ち、瞳は紫であった。

「どうしましたか、塙麒。」

「王様は、いるかな。」

「いますとも。いずれ、塙麒に会いにいらっしゃいます。」

流火は穏やかに微笑んだ。
つられて塙麒も笑うが、どことなく力はない。

「僕、こんなでいいのかな。なんだか、足りないような気がする。」

「焦らずともいいのです。今は大きくなられることだけ、考えていればいいのですよ。」

「まだ?」

「ええ。その証拠に、塙麒の背丈は伸び続けておりましょう?」

「…そうだね。」

塙麒はそう言うと司令である黒猫を抱いた。
黒猫の名前は椎雰「シイフン」。妖魔の中では中くらいの力で、素早く知能が高い。

(会いたい…けど、まだ、会っちゃいけない気がする…)

漠然と何かを感じる。
そこに行きたいけれど、足が竦んでしまう。
自分でない声が囁いている。
「まだ、時ではない」と。

塙麒は椎雰を抱きしめる力を強めた。

塙麒の心の中の不安がどんなものかわからない流火は声を掛けずにただ、隣に仕えていた。
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