夢物語

□巧州国王伝記 参
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かつて高貴な仙がいた。
その仙は先々代の王と懇意の中で、彼の即位と同時に角栄の郷長となった。

彼が郷長として名を馳せるのに時間はかからなかった。

彼は善政を敷き、民からの信頼も厚かったとされている。

「その仙に何か問題があったのか?」

「彼が郷長として高名になったのは、ある宗教のおかげです。」

「宗教…」

その宗教の名を「尽宗」という。
この世でヒトのために尽くせば、かの世で幸せに暮らせるというものであった。

先々代の巧王登極以前、つまり、その仙が郷長になる前のこと。
巧の荒廃は、それは酷い荒れようだったらしい。
その荒んだ人々の心は何かに縋るほかなかった。
それが「尽宗」である。

「人々はこの世ではなく、あの世に幸せを求めた。」

その尽宗を説いたのもかの仙らしい。
彼は尽宗の教えに沿って政を行った。
角栄のほとんどが尽宗信仰者だった。
それならば、その仙が郷長として慕われるのも無理はない。

が、政とは本来、独立して行われるべきものである。
ある宗教に依存した政治は何かしら問題が生じる。
故に独立するほかないはずなのだ。
それが当然のように行われていたとなると、先々代の王が登極時点で何か歩み間違えていたのかも知れない。

(いや、今はそんなことどうでもいい…)

過去は過去。
過去がどう今の角栄に影響しているのかを、自分は確かめに来たのだ。

ヒトのために尽くす。
これはとても聞こえのいい言葉である。
しかし、裏を返せば、
ヒトのためならば何をしても良い。
という風にもとれるのではないか。

「そうです。
先々代の王朝が傾き始めた頃、事件は起きました。」
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