宇宙色の恋(新婚編)

□天使のキス 後編
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「それじゃあ、行ってくる」
背広姿の地球人スーツを装着したギロロが出かけようとしている。
「行ってらっしゃい」
それをマタニティウエアを着た夏美が玄関先で手を振って見送る。
ここ数カ月、毎朝見られる日向家玄関先の光景である。

結婚した筈の旦那の姿が見えない事を近所の人が不審がるのを防ぐ為に
夏美のおなかが目立ちはじめた頃から毎日行われているのだ。

夏美にとってこの光景は自分の知る一般的な家庭の光景である。
改めて結婚して家庭をもったことを実感し、幸せな時を過ごす事が出来る為
この毎日おこなわれる儀式に幸せを感じていた。


門を出たギロロに近所の主婦が声をかける。
「あら日向さん、おはようございます」
「おはようございます」
ギロロは会釈をして挨拶を返した。
「夏美ちゃん、もうすぐね」
「はい、ありがとうございます」
「じゃあ、行ってらっしゃい」
「行ってきます」
元々人と接する事には慣れていない。
まして地球人と朝の挨拶をする事になるとは思わなかったギロロは最初とまどっていたが
夏美や秋に恥をかかせてはいけないと一生懸命笑顔で挨拶をしている。
その甲斐あってか挨拶にも慣れ、
ご近所の人達がギロロの事を怖がったり不審がったりする事も少なくなってきた。
赤い顔については事情があってマスクをしているのだと秋や夏美が説明しているらしい。

人通りの少ない路地に来るとアンチバリアを展開させて姿を消し、日向家に戻るのである。
そして夕方になるとまた帰宅する様子を演じているのだ。


「お帰りなさい、ギロロ」
リビングで夏美が迎える。
「向かいのおばさんにはかなわんな」
「今日も捕まっていたものね」
ギロロのぼやきを聞いて夏美が笑う。
「まあ、悪い人間ではなさそうだからな」
ギロロもやれやれといった様子で頷いた。

「お疲れ様」
ギロロにコーヒーを入れた夏美はギロロの隣に腰をおろした。
横に来た夏美の様子を見てギロロが心配そうな声で様子を伺った。
「夏美、調子はどうだ?」
ギロロの心配そうな表情を見た夏美は笑って答えた。
「大丈夫よ、最近は胃がおされる感じもなくなってきたし、おなかが下がって来たって感じ…」
「もうすぐね…」

出産を目前に向かえる夏美の容姿はやや丸みを帯びた妊婦のものだ
「こうして見ると女のお前にばかり負担がかかってしまっていて…」
「男はダメだな…すまん、夏美」
ギロロは夏美に頭を下げた。
そんなギロロを見て夏美はギロロの手を取ると首を横に振って微笑んだ。
「いつも言ってるでしょ、あんただけの子じゃないの」
「あたしの子でもあるのよ、それにあたしだけの子でもないわ…」
「あたし達二人の子供だからあたしは頑張れるし…」
「ギロロがいてくれないと…ダメなの」
「夏美」
「うん」
二人の顔が近づいていった。
・・・・・・・・

「今は妊婦だからこの体形だけど…」
「体重の管理やその他も対策ばっちりだから生まれたらまた元に戻るわよ」
自分の姿を見つめるギロロに夏美が笑って答える。
「お前が健康なら容姿などは気にせん…が」
「お前は秋の娘だからな、心配は無用か…」
二児の母である事や年齢を感じさせない秋の容姿を思い出してギロロは笑った。
「うん」
夏美も一緒になって笑った。


「あたしの娘だから心配無用ってなあに?」
不意に声がかかり、驚いた二人が振り向くとリビングの入り口に秋と冬樹が立っていた。
「相変わらず仲良しさんでよろしい」
「姉ちゃん、目の毒だから場所を考えてよ」
冬樹が顔を赤くして困り顔をしている。

「い、いつからそこに?」
ギロロと夏美は顔を真っ赤にして固まっている。
「さっきからよ、お取り込み中の様子だったので冬樹と二人でリビングに入れず困っていたの」

「すまん…」
「ごめんなさい…」
ギロロと夏美はさらに顔を真っ赤にして並んで俯いてしまった。
秋と冬樹はそんな二人の向かい側のソファに腰をおろした。

「で、名前はもう決まったの?」
秋が尋ねると二人は顔を見合せて
「いや、それがまだ…」
と、照れ臭そうに笑った。
「随分前から考えていたじゃない」
冬樹があきれたような顔をしている。
「悩むものなのよ」
秋が微笑んで冬樹に答えた。

「地球人の名前はよく分からなくてな…」
「決まらないのよね〜」
ギロロと夏美はそろって頷きあっている。
「結局人間体にしたんだね」
冬樹の言葉にギロロは夏美のおなかを見ると優しい表情で答え始めた。
「実際に産む夏美の事を考えると最初は人間体が妥当だろう…」
「それに地球にまだしばらく住む以上、なにかと人間体の方が都合がよいからな」

「夏美やあたしの為に地球にいてくれるのね、ありがとうギロちゃん」
秋がギロロに頭を下げた。
「よせ、秋…俺がそうしたいだけだ」
「もっとも俺はケロン軍の軍人だ、辞令が出れば他の星に赴かねばならない…」
「その時は夏美と子供の事を頼む…」
ギロロは静かに目を閉じると秋や冬樹に頭を下げた。

「その時はついて行くわよ」
「最前線ではそう言う訳にもいくまい…」
ほんの少し不安げな表情をする夏美にギロロは笑顔を見せた。
「なるべくそうならないように要望は出してあるがな…」
「ありがとう、ギロロ」
先程、外から帰って来たままのギロロは地球人スーツのままだ
夏美は嬉しそうな顔をしてギロロに身を寄せた。

「スーツ姿だと顔はともかく普通の人間同士の夫婦に見えるよね」
冬樹が笑うと秋が答えた。
「だって『日向ギロロさん』ですもの」
ご近所ではそう呼ばれている、婿養子という事になっているらしい。
ギロロは照れ臭そうな顔をして頭をかいた、リビングは暖かな雰囲気に包まれている。


「伍長さん、いらっしゃいましたら会議室までお越し下さい」
リビングにモアのアナウンスが入る。
「この家もすっかり軍曹の基地の一部だよね」
冬樹が苦笑すると
「もうずいぶん前からそんな感じよね」
秋も苦笑した。

「すまんがちょっと行ってくる」
ギロロが立ち上がりリビングを出ていこうとした時、ケロロの声が聞こえてきた。
「夏美殿や冬樹殿、ママ殿もおられましたらご一緒に地下基地までお越しいただきたいのであります」
「あたし達も?何かしら?」
夏美達もギロロについて地下基地に下りていった。
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