宇宙色の恋(新婚編)

□薔薇と口紅(ルージュ)
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手紙で公園に呼び出された夏美が指定された公園に到着すると
夏美の目の前に宇宙人とみられる人間型の女が現れた。
ややきつめの顔立ちながら整ったかなりの美人である。
女は夏美に近づくと声をかけてきた。
「よく来たわね、日向夏美さん…」

夏美はこの女の顔を一度見た事がある。
昨日、街中でギロロと一緒に歩いていた女だ…
その前にも一緒にいた所をタママに見られている。
そのせいで、夏美とギロロは少し気まずい雰囲気になってしまっているのだ。
当然夏美の機嫌は悪い。


「突然こんな手紙で呼び出して何の用?」
夏美の手には一通の封筒が握られている。
「最近ギロロに手紙を送っていたのもあんたなんでしょ?」
「…って言うか、あんたいったい誰なの?」
女に向かって問い質すごとに夏美の口調はきつく、顔は不機嫌そうな表情に変わっていった。

女は夏美の問いにニヤリと笑うと嬉しそうに答え始めた。
「自己紹介がまだだったわね、私の名は『ルージュ』…」
「早速用件を言うわ…ギロロを返してもらうわよ」


「はあ?何言ってんの?…返すって、ギロロを?馬鹿言ってんじゃないわよ」
「あんたギロロの何なのよ?」
ルージュの言葉に、ますます声を荒げ怒り心頭の夏美にルージュは薄笑いを浮かべたまま答えた。
「ギロロは私のものよ、昔からね…」

「なんですって!」
その言葉に夏美は持っていた手紙を握りつぶすと地面に叩きつけた。
「ふざけないでよ!ギロロはあたしの旦那様なのよ!!」
「なに訳の分かんない事言ってんのよ!」
夏美は左手の薬指に輝く結婚指輪をルージュに見せつけた。
「ほら、これがその証よ!」


夏美の指に輝く指輪を見たルージュは大声で笑い出した。
「可愛いわね…」
「そんな物一つでその気になっているなんて…」
「出てらっしゃい、ギロロ」
ルージュが指を鳴らすとルージュの後ろに立っている木の陰からギロロが現れた。

「ギロロ…どうして?」
「なんでそんなとこに居るのよ!こっちに来なさいよ!」
夏美がギロロを呼ぶがギロロは表情一つ変えず木に寄り掛かったまま明後日の方角を見ている。

ルージュはギロロが木に寄り掛かるのを確認するとギロロの腕を取り夏美に見せた。
「よく見て御覧なさい、この人の腕にはあんたとの結婚腕輪はもう付いてないわよ」
ルージュの言葉に夏美がギロロの腕を見ると確かに腕に腕輪が付いていない。

「そんな、ギロロ…そんな…どういう事?」
夏美が驚くのも無理はない、なぜならば二人のリングは一度付けたら二度と外れないようになっている筈だったからだ。
指や腕が太っても痩せても死んで骨だけになっても指の形、腕の形に大きさを変え続け存在し続ける…
そうなっていた筈だった…
それが二人の誓いの印の筈だったからだ。

目を丸くし身体を固め絶句している夏美の様子を見て再びルージュは大笑いをした。
「本当におバカさんね、まだ分からないの?」
「あなたは彼にとってただの暇つぶしなのよ」

「…暇つぶし?」
夏美の言葉にルージュという女はにやりと笑った。
「そう、侵略地での退屈しのぎ」
そう言うと後ろに立っているギロロの方を向きギロロに話しかけた。

「ギロロ、言ってやんなさいよ…」
「このあいだ、私に言っていたみたいにさ…」
「『辺境の侵略地の原住民の子供に優しい顔をして炭水化物系の餌を与えて餌付けしたらしっぽを振ってなついてきた』…ってさ」
そう言って夏美の方に振り返ると哀れむような眼で夏美を見た。
「それなのにいい気になっちゃって…」


「『しっぽを振って』って…そんな酷い!」
「嘘、嘘よ!ギロロがそんな事言う筈ないじゃない!!」
夏美はルージュの言葉を否定するとギロロを呼び同意を求めた。
「ね、そうでしょ?ギロロ…この人の言う事なんか信じちゃダメだよね?」
「こっちに来て、ギロロってば!」

「・・・・・・・・」
夏美がギロロに向かって話しかけるがギロロはルージュの後ろにある木に寄り掛かったまま返事をしない。

「…ギロロ」
夏美の声は小さくなっていった。


「何とでもいいなさい、どちらにしてもギロロは元々私のものなのよ…」
「これ以上「宇宙TV」で奥様面されちゃあかなわないわ…」
「そうでしょ?ギロロ…」
ルージュは振り返り後ろにいたギロロを抱きかかえると夏美にこれ見よがしにギロロとキスをした。

「いや…やめて…やだ、ギロロ――――!」
ルージュとキスをするギロロの姿を見た夏美は慌てて二人の間に飛び込んで行った。


「五月蠅い娘ね!」
「きゃっ!」
ルージュの放ったビームが夏美を直撃した。
結婚指輪に仕込まれたバリアが夏美を守ったものの
その衝撃で夏美は地面に叩きつけられてしまった。

「助けて…ギロロ…」
「ギロロ…」
夏美は必死にギロロを呼ぶが
ギロロは夏美を助けようともせずにルージュの後ろに立ったままだ。

「行きましょ、ギロロ」
「・・・・・・・・」
倒れた夏美をそのままにしてルージュとギロロはその場から立ち去っていった。

「…どうして?…ギロロ」
涙でかすむ視界の向こうにギロロは消えていった。
ルージュの攻撃を受けたとはいえ夏美のダメージは立ち上がれぬほどのものではなかった。
ただ、ルージュという女性から聞かされた言葉と無言で自分を助けもしないギロロの姿に
最愛の人に裏切られたという思いが夏美の中を駆け巡り
身体から力が抜け、今は起き上がる事の出来る状態ではなかった…

身体よりも胸が苦しかった…
そっと左手を見ると薬指には結婚指輪が輝いている。
「…やだ…こんな時まであたしを守らないでよ…」
バリアで夏美を守り誇らしげに輝く指輪を見て仰向けに地面に倒れたままの夏美は泣きながら小さな声で呟いていた…
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