彼岸島読み物

□デートをしようその4
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「みんなっお疲れ様」
「ほんとにみんなが無事でよかったわ」
「すげえ数の吸血鬼だったもんな」

 明が不本意ながら雅との邂逅を果たした日の夜、レジスタンスの村では主だった面々が集まり今日の戦いについての報告がなされていた。どうやら今回の吸血鬼達との戦いはその規模から考えると驚くほど最小限の被害で終えることが出来たようだ。

「師匠に篤さん、それに明が修行を終えて戻ってきてくれたからよね」
「いやそれなんだが」

 篤は皆の顔をゆっくりと見渡してから素敵丸メガネを指先で押し上げて言った。

「俺達の働きも多少はあったのは否定しない。だが皆も聞かなかったか戦いの最中にホイッスルの音がして、その後吸血鬼達が慌てて撤収していったようなんだ」

 篤の言葉にケンが頷いて後を続けた。

「その音は俺も聞いたぜ。どっちかっていうと数の上じゃあいつらの方が優勢だったのにな。そういやあ」

 一旦言葉を切りケンは隣に座る明をまじまじと見つめた。

「吸血鬼達が撤収していった方向に居たのって明じゃなかったっけ」

 ケンに話を振られて今まで黙って座っていた明は曖昧な返事を返した。

「え、あ、ああ」
「私達心配してたんだよ、明が無事だったから良かったけど」
「・・・・・・」

 実はあまり“無事”ではなかった明は口元を微妙に引き攣らせて沈黙を通した。そんな明の様子には気付かずケンが興味津々といった様子で話しかける。

「お前どうやってやり過ごしたんだよ」
「あ、うんそれは・・」
「やだケンちゃん、そりゃあ隠れてたのよ。あの数を一人でどうこうなんて無理よ」
「そういやそうだな」
「明、何もなかったんだな」

 篤が『ああ俺は弟が大好きだよ可愛いから。だって本当の事だしね』とばかりに過保護全開で明を見つめる。

「あ、あの」
「どうした明」
「なんにも・・なんにもなかったぜ」

 今明の心を占めるのは無駄に容姿端麗、いやなまじっか容姿端麗であるが故に残念感が拭えない吸血鬼の姿だった。

・・・言えないよな・・・

 心配をかけたくない明は尚も言いつのろうとした篤に最終兵器的威力を発揮する笑顔を無意識に披露して、兄の魂を抜いた。

・・・言えるもんかっ雅にセクハラされてたなんて!!

 初めて対峙した不死王雅はとんでもないセクハラ吸血鬼だった。
 思い出すと悔しいやら恥ずかしいやらで気持が千々に乱れるのだが、明は倒すべき敵であるはずの雅から、告白をされ→抱き締められ→キス(しかも2回も)→あげくに明日のデートの約束までとりつけられたのだ。

・・・誰がデートなんかっっ

 男としての矜持もある。
 何より明の事となると人格が変わる篤や明関係の事柄には酷く敏感な仲間達には、その後の展開が恐ろしくてとてもではないが打ち明ける気にはなれなかった。雅が明に対して行ったセクハラの数々を知ろうものなら篤は額に青筋を浮かべ、あの素敵丸メガネを光らせながら単身雅を切り捨てに向かうだろう。
 どれだけの危険が待ち受けようと。
 明の悩みは尽きない。
 それもこれもあの吸血王がいけないのだ。

・・・雅の馬鹿!

 居心地の悪い集会はやがて解散となり、時刻は深夜を回っていたため明は自室に敷いたふとんに潜り込んだ。昼間の様々な体験で心身共に疲れ切っていたためか程なく眠りの海に引き込まれていった。

 
 翌日、朝食の席で明以外の面々はとある一点を伺い見ながら同じ葛藤を心の中で繰り返していた。

・・・もしかして。
・・・い、いや、まさか。
・・・そんなわけ・・ないわよね。
・・・でも、どう見ても・・・

 室内にはいつもの楽しい会話は陰を潜め代わって場を覆っているのは息が詰まるような静寂だ。

・・・い、言うべきかしら。
・・・人違いだったらかなり失礼だしな。
・・・だ、だがこれほど・・・

・・・ううう。

 明には皆の言いたいことが聞こえてくるようだった。しかしながら真実を口にすることだけは絶対に出来ない相談だった。

「あ、明ちょっといいか」
「ど、どうしたんだよ兄貴、真剣な顔をして」
 明の背中を冷たい汗が幾筋も伝い落ちて行く。
「あ、ああ・・その、まさかそんな事があるわけがないとはわかっているんだが」
「う、うん」
「いや気を悪くしないでくれよ。お前の隣に座っている彼・・・雅じゃないよな」
「・・・!!」

 篤の核心を突いた問いに動揺し口から漏れかけた言葉を明は何とか押さえ込んだ。
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