彼岸島読み物

□番外編・最強の嫁
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「雅様〜いい加減に仕事をしましょうよ」
「代理で働いていた斧神様が過労でダウンしたんですからここは雅様の出番ですよ」
「斧神様は一人で食料の買い出しから冠婚葬祭の手配から悪魔払いとか、エアロビクス教室のインストラクター、ついでに魔法戦士までされてたんですから」
「雅様は吸血王だけでしょ」
「おい、それって職業だったのか」
「まあ細かいことはこの際いいとして、雅様、働いて下さい」
「嫌だ」
「嫌だじゃありませんよっっ駄々を捏ねないで下さい!いいお年をして気がつけばそこら辺をフラフラフラフラ、たまにいらないアレをブラブラさせてる場合じゃないんですよっ」
「待て、ブラブラとは何だ」
「そこは軽く流して下さい。いいですかあなたは吸血鬼の始祖なんですから立場に見合った仕事が山のようにあるんです」
「残念だが今日は明に会いに行く日なのだよ」

 雅の言葉に吸血鬼達は待ってましたとばかりに隣室に続く襖を引き開けた。

「きっとそう言うだろうと予想しまして、レジスタンスの村から明さんその人を浚っておきました!」
「よくやったぞお前達っ」
「・・・・・・ですが残念なことにちょっぴり間違って田中を浚って来てしまいました」
「邪鬼は人の顔の区別がつかないらしくて」
「惜しかったですね雅様」
「・・・さあ、明の所へ出かけるか。後、田中は屋敷の屋根から逆さに吊しておけ」
「お、お待ち下さい雅様っ今のは『掴みはOK』的な前振りです。明さんはそこに!」

 再び襖が引き開けられる。
 そこには額に青筋を浮かべた明が佇み、雅を静かに睨み付けていた。

「えーと、明さんは非常にご立腹です」
「誰も怖くて近づけません」
「浚いに行った者は精神的負荷に耐えきれず高熱を出して寝込んでいます」
「明は何をそんなに怒っているのだ!?」
「そりゃあ雅様が駄々を捏ねる度に我々が浚って来てるからじゃないでしょうか。今日だけでもう5回目ですし」
「特に今回はユキさん手作りのアップルパイを今から食べようかなというところを浚って来てしまいましたので、余計にご立腹のようです」
「では明さんご入場です」

 ゆらりと闘気を纏って歩き出した明は雅の前でぴたりと足を止めた。

「あ、明会いたかったぞ」
「言いたい事はそれだけか」

 明はスッと息を吸い込み拳を握り締めた。

『今度駄々を捏ねたら別れるからな!!』

 星をも砕く破壊力を秘めたぐうパンチは見事に雅を黙らせ、そんな明のことを吸血鬼達は“最強の嫁(明否定)”として改めて恐れ敬った。

「やっぱ凄いぜ明さんっ」
「さすがは最強のお嫁さんだっっ」
「雅様・・ピクリともしないけど大丈夫かな」
「多分」
「・・そっか」

 田中を引きずって戻って行く明の姿は後世まで吸血鬼達の間で語り継がれ、この日から暫くの間、雅は駄々を捏ねるのをやめたらしい。

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