長編
□仮面舞踏会
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ゆっくりと、サラは馬車から降りる。
サラの顔には、もうしっかりと仮面がついていた。
サラが降りた瞬間に馬車は、もときた道を走りだす。
サラは1人、取り残される。
良家のお嬢様である、サラにとって、こんなことは初めてのことだった。
舞踏会や演奏会、どんなときも、サラは一人になったことはない。
サラの心は不安で一杯だった。
でも、一歩、一歩ゆっくりとではあるが、サラは勇気を出して会場へと歩き出す。
『母さんはね、そこでとても大切な人と出逢ったの』
『その人のことは今でも憶えております』
『本当に素晴らしい人だった』
母や婆や、そして姉の言葉が胸に響いた。
ー私も、そんな素敵な人と出逢いたい。
サラを動かしているのは、ただその思いだけだった。
相手は誰か分からない。
だからこそ、許されることもある。
サラは勇気を振り絞って、大きな扉を開いた。