☆ムスカの小説☆
□ムスカ×おかみさん@
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ムスカは石を奪って旅客船から逃走し落下したシータを追って自ら聞き込みを行っていた。
町人の中には毛色の違うムスカを疎んじ無視する者もいた。
(やれやれ…)
ムスカは心の中でため息をつく。
(なんてさびれた貧相な町だ。つぎはぎの汚い服を着た奴ばかりだ。)
ふと前方に小さな女の子が家から出てくるのが見えた。彼女は楽しそうに足取り軽く道の奥に消えていった。ムスカはその家の前に来ると扉をノックした。
「誰だい?」
バタバタ足音がして軽く扉が開く。中から覗いたのは飾りっ気は無いが整った顔立ちの若い女性だった。色眼鏡ごしのムスカと目が合う。ムスカは好青年を装って話しだした。
「私は政府の者でムスカと申します。少しお尋ねしたい事があるのですが」
小綺麗な格好に丁寧な態度…ダッフィの若妻は扉を大きく開いた。
「尋ねたい事ってなんだい?」
「ええ。人探しをしているのですが深い茶色の髪をおさげにした少女を見かけませんでしたか?」
ムスカは紳士的に柔らかく話した。
「おさげの女の子?いや見かけてないねぇ」
おかみさんは正直に答えるとムスカの足元に視線を移した。ムスカの靴は砂利だらけの道を歩いてボロボロになっていた。
顔には疲労の影が浮かんでいる。
「あんた…顔色が悪いけど大丈夫かい?」
「?…いえ心配には及びません」
ムスカは自身の失態を自分の手で解決しようと必死になっていたのだ。
「良かったら少し休んでいったらどうだい?」
面倒見のいいおかみさんはムスカの腕を引っ張り部屋の中に招き入れた。
「………」
ムスカは想像外の展開に驚き、只立ちつくしていた。
「そこの椅子にどうぞ。」
「いや、お気持ちは有難いのですが私には任務があるのです。急がなければ…」
ムスカは申し訳なさそうに言った。勿論、演技だが。
「そう。じゃぁ食事だけでもしていったらどうだい?丁度晩飯のシチューを作りすぎちゃった所なんだ」
おかみさんがテーブルに水の入ったコップを置いた。そしてムスカの返事も聞かずにシチューを皿に盛りだす。食欲をそそる匂いがムスカにも届く。
おかみさんはシチューの皿とパンをテーブルに置いた。
「良かったら食べていっておくれ」
失態に焦って水分補給もままならなかったムスカは
(食事まで用意してくれる等有難い)
と大人しくテーブルについた。
「ご婦人、よろしければお名前を?」
「私かい?私はアンヌって言うんだ。似合わない名前だろ?皆にからかわれちまう」
アンヌははにかんでそう答えた。
「いいえ、とんでもない。とてもお似合いですよ。素敵な名前だ。」
都会の男にお世辞を言われてガラにもなくおかみさんは頬を紅潮させた。
「実は今朝から何も食べていなくて…有り難くいただきます。」
ムスカがシチューをスプーンですくって口に運ぶ。
「とても美味しいです。普段店でばかり食事をとっているので」
ムスカの言葉に嘘は無かった。外食に慣れたムスカにはおかみさんの手作りの素朴な料理は新鮮さを感じさせた。
「ふーん。店でねぇ。あんた独身なのかい?」
「ええ。仕事が忙しくて中々機会もないのです。」
ムスカは適当に話を合わせながら食事を続けた。そんなムスカをおかみさんはマジマジと観察した。何しろこんな取り得もない町に都会の人間が来る事等珍しいのだ。
(やっぱり都会の人は垢抜けてるねぇ。うちの旦那とは食事の動作も違う。あの人はガツガツたいらげちゃうからね…)
ムスカの品のある仕草を感心して見つめていた。
(パッと見は優男に見えたがよく見ると体格もがっしりしていていい男じゃないか)