友達の笑い声と共に体育館の会場が沸き、由羽(ユウ)はステージを振り返った。
そこには白いクロス一枚を身にまといグリーンリースをかぶった神様の姿の男子がひとり、
まだ上がらない幕の前に立ってこれから何か言おうと小さく両手を広げていた。
プロローグのセリフを言っているものの、その姿に周りの笑い声がうるさくて、
神様の声はあまり由羽には聞こえないうちにステージの裾に姿を隠してしまった。
"初めてその存在を知った。"
それは中学の学芸会。
ステージはロミオとジュリエット。
年齢の設定はまさに自分達と同じ年頃の二人の話なのに、
由羽には随分と大人の世界の話のように思えてステージを見ていた。
時々幕が下りる度に現れる神様に会場が沸き、
また由羽もその印象の強さに釘付けになった。
その後日も友達と校内を歩くと神様に出逢うことはあったが、
神様をやった面白い先輩がいるんだとそのステージを思い出し、
友達と顔を見合わせてちょっとクスッと笑ったりする以外何もなかった。
2つ年上の先輩だったのですぐ卒業してしまい、
その後姿を見ない間はすっかりそんなことがあったことも忘れていた。
そして由羽は高校生になった。
高校入学後の新入生歓迎会。
演劇部紹介のステージに神様は立っていた。
由羽の中にまたあのときの記憶がよみがえる。
一緒の中学校から入学して来た友達も数人かは気付いただろう。
もう神様の姿ではないがあのときと変わらないで彼はそこにいた。
始まった高校生活は1年生のいる別館と3年生のいる本館と離れていて、
由羽の入った部活が別館にある美術部であるのもあり神様とは殆ど会うことなく1年間を過ごした。
そして由羽にとって神様は多少の興味はあったとしても、
ただ印象が強い風変わりな先輩としてしか見ていなかった。
名前も知らないまま彼は中学と時と同じようにまたすぐに卒業していった。