由羽は出産・育児のために社員で働いていた会社を辞めてしばらく経っていた。
さすがに家計は2馬力から1馬力への変化へ耐えられなくなって来ていたある日、
知人からとあるショッピングモールでバイトを探しているのでどうかと言う誘いの話があった。
姑に子供を預け早速始めた仕事は以前スーパーで働いていた経験からあっさり覚え、
一緒に働くおばさま方とも仲良くなって気持ちにも余裕が出来るようになっていた。
由羽にとって2、3時間のバイトも育児から一時的に開放される新鮮さで楽しく、
あまり仲のよくない姑と一緒に一時でも過ごさなくてイイという精神的に自由な時間でもあった。
しばらくしてどういう流れからか一緒に働くバイト仲間の男性から突然に告白され、
夫子供がある身でも仕事の間だけは彼と親しく過ごしていたが周りにはもちろん秘密だった。
しかし夫は異常なほど嫉妬深かったのでバイト以外では時間を作って彼と逢うことはないが、
まるで独身に戻ったような時が過ごせることに毎日が輝いて感じられた。
数ヶ月すると同じ時間に勤務する店舗の従業員の殆どが声をかけてくれるようになっていた。
そんな中で少し前から由羽は周りから声をかけられるばかりでなく、
いつものように声をかけられたら自分から話しかけてみようと思っている顔があった。
"あのときの神様ですよね?"
バイトを始めてからずっと心の中にある問いかけをいつかその人にぶつけてみたかった。
恋愛とは違うけれどいつからどんな人なんだろうという興味がずっと湧いていた。