銀魂(短編)2

□僕だから気付く事
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梅雨時の貴重な晴れ間―。

今日は久し振りに妙ちゃんと外で待ち合わせをしている。

いつものように少し早めに着いていた僕は、前方から人混みの中を歩いてくる君を見付けて、少しホッとする。


何度待ち合わせをしても妙ちゃんの姿を見付けるまで、何故だか不安になってしまう自分がいる。

不安と言っても、本当に些細な事が気になるだけ…。

待ち合わせの時間はこれで良かっただろうか、妙ちゃんは無事に来れるだろうか、途中で変なトラブルに巻き込まれたりしないだろうか―。

バカらしいと思いながらも、そんな想像をやめられない。全て妙ちゃんの事が好き過ぎるせいだけれど…。



そんな事を考えながら、こちらに近付いてくる妙ちゃんに少し微笑むと、君も何時ものように笑顔を返してくれる。


「九ちゃん、待った?」

「いや…」


そう言いながら微笑む君の顔を見てから、僕は思わずもう一度君の表情を確認した―。


「妙ちゃん?」

「…なぁに?九ちゃん」


不思議そうにこちらを見ながら、小さく笑う笑顔は確かにいつもの妙ちゃんの表情なのだけれど…。

でも、何かがいつもと違うような気がしてしまう。

けれどその違いを上手く説明する事ができなくて、仕方なく僕は話題を変えた。


「…いや、なんでもない。それより妙ちゃんはどこに行きたい?」

「そうねぇ、色々ありすぎて困っちゃうわね」


あれこれとお店の名前を上げながら、楽しそうに話している君を見て、やっぱり気のせいかと思い直す。

さっきまで変な心配をしながら待っていたのが、いけなかったのかもしれない…。





いつもの事だけれど、街へ出ると僕はいつも君のペースで連れまわされてしまう。

着物屋を覗いてから小物屋を見に行き、甘味処で一休みしたと思ったら次はまた別の店へ回る。

どうして女の子はこんなに色々とお店を知っているんだろうと、いつも感心してしまう。

僕自身は買物にあまり興味はないが、それでも妙ちゃんが楽しそうなら、それだけで僕も楽しいと思えるから別に構わないのだけれど。



―それでも、今日はあれからも時折見せる妙ちゃんの表情が、どうしても気にかかってしまう。

別に悲しそうだとか、不機嫌だとか言う訳ではない。いつもの妙ちゃんと何が違うかと聞かれても上手く答えることは出来ない。

ただ単に僕の思い過ごしなのかもしれない。でも、やっぱり何かが気にかかる。


いつまでも気にしていても始まらないと思い、僕は思い切って妙ちゃんに訊ねてみる事にする。


「妙ちゃん、何かあったの?」

「…え、どうして?」

「いや…なんとなくいつもと違うような気がするから…」

「そうかしら?」

「そんな気がするよ…」


やはりこの感覚を上手く説明できそうになくて、その分、僕は真っ直ぐに妙ちゃんの瞳を見詰めた。

妙ちゃんもそのまま僕の方を見詰めていたが、やがて少し視線を外す。


「…大した事じゃないの。ちょっと仕事の事で」


溜め息をひとつ付いてから、また少しいつもとは違う笑顔で微笑んで見せる妙ちゃんに、僕もそれ以上は何も言えなかった。

いつもと違う理由がある事が分かっただけでも充分だから…。


「そうか…」

「本当に大した事じゃないの。心配しないで?」

「…分かった」

「でも、どうして分かったの?私がいつもと少し違うって」

「うまく説明できないよ。…ただ、そう感じたんだ」


本当に説明のしようがなくてそう答えると、妙ちゃんは僕の腕に自分の腕をそっと絡ませた。


「九ちゃんって、なんだか不思議ね」

「不思議?」

「ええ、私の事をなんでも分かっているみたいだもの」

「…不思議なんかじゃないよ」

「ううん、不思議よ」

「そうかな?」

「でも、気付いてくれて嬉しいわ。…ありがとう」




そう言ってこちらを見て微笑む君の表情は、見慣れたいつもの笑顔に戻っていた―。







どうして、なんて分からない。



だけど君が少しでもいつもと違うなら、僕は絶対に気が付く自信があるんだ。



だって、僕はいつだって君の事だけ見詰めているんだから―。












甘々・ほのぼの系お題No38 

きっと九ちゃんは妙ちゃんのちょっとした落ち込んだ気持ちとか、態度とかでも敏感に察してくれそうだなぁ(*^_^*)
でも、口下手そうだからそれを上手く表現できないで、一人で戸惑っていそうだなぁって考えました。
ずっと妙ちゃんだけを見てきた九ちゃんだから気付く事の出来る、ほんの些細な出来事を妄想しました。




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