銀魂(長編)

□路 9話
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―「ねえ、九ちゃんって呼んでもいい?」



お優はすっかり九兵衛が気に入ったらしく、あれから頻繁に部屋へ遊びにくるのだった。

「九ちゃん?」

ドキリとした。それは最愛の人が初めて自分に付けてくれたあだ名と同じだったから。


「そう、九兵衛って長くて呼び難いじゃない。だから頭文字をとって九ちゃん。駄目?」

「駄目という訳ではないが…」

なんだか妙と同じ呼び方で、他の女の子から呼ばれる事に微かな抵抗を感じた。

抵抗と言うか妙への罪悪感…。


「…なんだか駄目そうね。いいわ、だったら止めておく。本人が気乗りしない呼び方で呼んでも意味ないしね」

お優はあっさり前言撤回した。

「すまない…」

「謝ることじゃないわよ」



いつでもこんな感じでサバサバしている彼女に、九兵衛も少しずつ心を開きつつあった。


自分と境遇が似ている事も、親近感が沸いたのかもしれない。

いや、彼女はちゃんと女の子として育てられているが、女の身でありながら道場を背負ってたつと言う立場は同じだ。

それなりに歴史のある道場の跡取り娘。彼女はそんな立場が嫌じゃないのだろうか。


どうやらそんな事を考えながら、まじまじとお優を見詰めていたらしい。


「如何したの?私に見惚れてるのかしら?」

とからかわれて、ハッとした。



「いや…。ここを継ぐ以上君も剣術を学んでいるのかな、と思って見てたんだ。道場では見掛けた事が無かったし」

「いや、って言うのは失礼よね。まあ、いいか…。稽古は一応やってるわよ。大して強くは無いけど。やっぱり跡取り娘が何も出来ないと、立場ないじゃない?」

「嫌じゃないのか?女の身で道場を継ぐ事は」

「全然。だってせっかく歴史のある道場なんだもの。私の代で止まらせるなんて勿体無いじゃない。まあ、時代錯誤を感じる時もあるけど…でも、それも嫌いじゃないわ。要は人生なんて楽しんだ者勝ちよ」


…なんと言う前向きさ。

「どっち道、私は婿をとらなきゃならないから、そっちは案外大変なんじゃないかしら。やっぱり旦那様は少しは強い人を選ばないとまずいだろうし」

「成る程…」

「柳生家はもっと大変なんじゃないの?名門だもんね。あなたなら時期当主としての実力は問題ないだろうけど、お嫁さんの方は、立候補者が多くて選びきれないんじゃない?選り取り

見取りでしょう?」

「人聞きが悪いな。僕はそんな人間じゃない」

「そうかしら?」

「…それより君の方こそ行動に問題があるんじゃないのか?毎晩のように、男の部屋へ尋ねてくるなんて、何かあると思われても文句は言えないぞ」

反撃のつもりで言った言葉だが、お優はニッコリ微笑んだ。


「それも悪くないわね。あなた、私を襲えるの?」

「…言っただろう、僕はそんな真似はしない。だが、君もこの道場を背負ってたつ身ならば、行動にも気を付けた方がいい。何かあってからでは遅いのだから」

「本気よ」

「え」

「私は初めて会った時から、あなたの事が気に入ってるの。あなたのお嫁さんになるのなら、悪くないなって思ってるわ」

「……」

「本当の事を言えば、私達両家の間ではそんな話しも出てるのよ。私たちを添わせようって」

「…なっ!」

「お互いの道場も合併させて、さらに大きく、強くする。悪い話じゃないものね」

「…知らなかった」

「でしょうね。私だって、つい先日知ったばかりよ。お爺様の話しを盗み聞きしてしまったの」

「…そうか…」







―ガラッ



九兵衛の部屋の障子が開いたと思ったとたん、師匠が現れた。


「―そこまで知っているのなら、話しは早い」


「師匠…」

「お優、九兵衛を借りるぞ。九兵衛、ちょっとわしの部屋へ一緒にこい」

「…はい」
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