銀魂(長編)
□路 6話
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―バシッ パァァン!
道場に竹刀の音が響き渡る。
「次!お願いします!」
そう言って九兵衛は周りを見回した。
しかし、それに応える者は誰もおらず、皆倒れこんでしまっている。
「…あの…」
「どうやら今日はこれでお終いのようじゃな、九兵衛よ」
「師匠…」
「敏木斎の奴から聞いてはおったが、凄まじい強さじゃな」
「いえ、僕は…」
「下手に謙遜されても困るぞ。事実、うちの道場にはおぬしの相手が出来る者は、ほんの僅かじゃ。その者達もすでにあの状態ではないか」
「……」
「九兵衛よ、すでにそこまでの強さを持つおぬしが、何故そうまで躍起になって、それ以上の強さを手に入れようとしている?」
「……」
「誰かを護る為か?―いや、今のおぬしは他人くらい優に護る事が出来るな。では、自分自身の何かを護る為か?」
「師匠、僕は強くなんかありません。ただ他人より少しだけ剣が使えるだけ…」
「……」
「そんな中途半端な強さなど、何の意味もありません。他人を護るだけの強さなんて、何も無いも同じで…」
「何故、そんな事を思う?」
「事実だからです」
「他人を護れると言う事は、それだけでも大した事ではないか」
「…いいえ。護れるだけでは意味を成しません。自分も無傷でいなければ、護った者を結局、傷付けてしまうだけです。そうならない為には圧倒的な強さが必要なんです」
「…それは、その左目に何か関係しておるのか?」
「……」
「九兵衛…」
「…師匠に対して、言葉が過ぎました。申し訳ありませんでした。―失礼します」
一礼して道場の外へ出ると、冷たい空気が上気した頬を心地良く冷やしてくれる。
敏木斎の口利きで、紹介してもらった東北の道場に世話になりだして、もう一ヶ月以上が経つ。
稽古としてはそれなりに充実した日々を過ごせている。
しかし、心はいつでも満たされない空しさで一杯だ。
妙ちゃんはどうしているだろう。
もう立ち直って、日々を忙しく過ごしているだろうか。
手紙くらい出してみようかと何度か思ったが、その度にせっかく落ち着いたかもしれない妙の心を乱してしまいそうで、踏み止まった。
何より、自分自身我慢が出来なくなってしまうのが怖かった。
暇が出来ると、どうしても妙の事ばかり考えてしまうので、出来るだけ時間が空かないように夢中で稽古に時間を費やしてきた。
そのおかげで、この一ヶ月で剣の鋭さは見違える程になってきたが。
―しかし、今更その強さを手に入れて、今度は何を護ろうと言うのか…。もう、護るべき人はいないと言うのに…。
6話・完 次話へ続く