銀魂(短編)1

□触れていたい
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もう2週間近く、あなたからの連絡が来ない―。



今まで、こんなに長い間連絡が途絶えた事なんてなかった。

あなたが修行の旅に出ていた3年間を除いては…。



こんなに長い間放っておかれる理由の察しは付いている。

先日の、通り雨の時の一件だ。


あの時、私達の間に起こった出来事に責任を感じているのだろう。


察しは付くけれど、それで寂しさが紛れる訳でもない。

特に自分の気持ちに気付いてしまってからは…。

あの人の事だから、また深刻に考えて動きが取れなくなっているのかもしれない。

そう考え付くと居てもたってもいられなくなり、とうとう自分から連絡を取り今度の休日に会う約束を取り付けた。








―当日。


何時ものように待ち合わせ時間よりも前に来ているあなたを見付け、声を掛ける。

「九ちゃん!」

「あぁ、妙ちゃん…」

あなたは何処か落ち着かなさそうに視線を泳がす。


「久し振りね」

「…ごめん、ちょっと仕事の方も立て込んでいて、なかなか連絡できなかったんだ」

やっぱりあの時の事を引きずっているのか、なかなか目線も合わせてくれない…。


「何処へ行きましょうか?」

「妙ちゃんが行きたいところで構わないよ」

「…じゃあ、久し振りに映画でも見ない?」

映画なら黙ったままお互いを近くに感じることが出来る。

今の微妙な空気の私達には、最善の過ごし方に思え、提案してみる。

一緒にいるうちにこの緊張感も解けていくだろう、と―










―映画を見て、食事をし、その後はウィンドウショッピング…。

言葉にすれば楽しい一日のようだが、実際は少し違っていた。

一緒にいるうちに解けると思っていた変な緊張感はずっとあなたを支配している。

話し掛ければ返事をしてくれるし、笑いかければ微笑んでくれる…。

それでもあなたの心が伴っていない事がハッキリ伝わってくる。






―帰り道、とうとう私は我慢が出来なくなった。

「…九ちゃん」

「ん?」

立ち止まると、私より一歩遅れて歩いていたあなたも立ち止まる。


「…私と居るの、つまらない?」

そう問い掛けると、あなたは目を見張る。

「そんな事ないよ」

「だったら、どうして今日一日中ずっとそんな所を歩いてるの?」

そう、あなたは一日中ずっと私の一歩後ろを歩いている。隣を歩こうともしない。


「そんなに離れてたら、お話しだって満足に出来ないじゃない」

「其れは…だって…」

「だって…何?」

「…だって、恐がらせてしまうだろう…」

「…何を?」

あなたの言う意味が掴めず、さらに問い掛ける。




「…僕はこの間、妙ちゃんに酷い事をしてしまった。絶対にやってはいけない事だったと思ってる」

「……」

「其の僕が、隣を歩いていて何かの拍子に手が触れたりでもしたら、また妙ちゃんに恐い思いをさせてしまうだろ…」

そう言いながら目線を下に外し、俯いている。



…気にしていると思ってはいたけれど、まさかここまで考えているとは思わなかった。

生真面目で、融通のきかないあなたらしいと言えば、らしいけれど…。


「…九ちゃん」

「うん…」

「九ちゃんは、誰にでもあんな事をするの?」

この問いには、さすがにあなたも鋭く顔を上げた。

「そんな事、する訳ない。僕は妙ちゃんだから―」


「…だったら、いいじゃない」

「え?」

「誰だって、好きな人に触れていたいって思うのは当たり前の事よね」

「それは、そうかもしれないけど…でも、僕のやった事は―」


尚もごちゃごちゃ呟いているあなたに向かって、私は一歩詰め寄る。

そして、そのまま白い頬へそっと口付ける―。




「―――な…」

唇を離し、目を丸くして何が起こったのか把握出来ていないあなたの手をそっと握る。

「…だから私も何時でも九ちゃんに触れていたいわ」



漸く状況を把握しだしたのか、徐々に白い頬に赤みが差してくる。

「…行きましょう」

顔を見ているのが恥ずかしくなって、そのまま手を繋いで歩き出すとやはり少し遅れて歩くあなた。

私も今とってしまった自分の行動が恥ずかしく、声を掛けるどころではない。



暫く歩いたところで、不意にあなたの手に力が入る。

そのまま少し後ろに引かれ、私は振り向く―。



すると、今度はあなたの唇が私の頬へ優しく触れる―。

「―九ちゃん…」

「…お返し」

「え?」

「僕だけドキドキさせられるのは不公平だ」

そう言って、私の目を真っ直ぐに見つめる。見慣れたいつものあなたの表情―。


今度は私の顔がみるみる赤くなった。

私の其の反応を見て満足そうに微笑むあなた―。



「妙ちゃん、大好きだ…」

私の耳元で囁いて、歩調を僅かに速め隣に並んで歩き出す。




―今は此方を振り向かないで。きっと私はみっともないくらい顔を赤くしているもの―


















ウジウジ九ちゃんと、ちょっぴり積極的なお妙さんを書いてみました。ちょっと九ちゃんが女々しいですが、たまにはありかな、と。

でも、最後は少しだけ九ちゃんにもカッコつけてもらいました。

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