銀魂(長編)
□路 5話
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―あの日からどれ位経ったのだろう。妙の中の時間はあの日、九兵衛の手紙を読んだ瞬間からピッタリ止まってしまっていた。
何もする気になれないし、何を見ても何も感じない。
食べ物を食べても味が分からないし、眠気でさえもあまり訪れてはくれない。
悲しみ以外の感情が全てどこかへ行ってしまったようだった。
当然こんな状態では仕事にも行けず、ずっと家に篭りきりの状態だ。
―パタン
背後で襖の開く音がして、新八が食事を載せた盆を手に入ってきた。
「姉上、食事の用意が出来ましたよ。少しだけでも食べてみて下さい」
「ありがとう」
妙は返事はするものの、やはり食事には手を付けようとしない。
「…姉上。本当に少しでも食べないと、姉上の体が持ちませんよ。もう一ヶ月もこんな調子じゃありませんか」
「心配かけてごめんなさいね、新ちゃん。でも、今はお腹が空いていないから後でいただくわ」
「姉上…」
―これがあの姉上だろうか。例え辛い時だって笑顔を絶やした事のなかったあの姉上が、こんなに憔悴しきっている…。
しかも一向に気持ちが浮上してくる気配が無い。このままでは本当に倒れてしまうんじゃないかと思えるほどだ。
それだけ姉上にとって、九兵衛さんの存在は大きかったと言う事か―。
新八は内心複雑だった。
元々、姉と九兵衛の仲を諸手を挙げて賛成していたわけではない。
やはり姉には人並みに何処かへ嫁いで幸せになってもらいたいと思っていた。女同士では如何に思い合っていようと、如何しようもないではないか、と。
だから正直今回の騒動を知った時も、最初は九兵衛に感謝したい気持ちだった。やっと姉を手放す気になってくれた、と。
しかし姉のこの状態を目の当たりにすると、そんな事を考えていた自分自身が後ろめたく感じる。
新八は言葉に詰まり、それ以上何も言えなくなって
「じゃあ、ここに食事を置いておきますからお腹が減ったら食べて下さいね。僕、これから万事屋の方へ行かなきゃならないですけど、なるべく早くに戻りますから」
努めて明るくそう言って、妙の部屋を後にした。