銀魂(短編)2
□君しかいらない
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今日は九ちゃんのお誕生日―。
せっかくの誕生日なのだから、何か特別な事をしてあげたいと少し前から色々考えてはいた。
けれど元々あなたは物欲の薄い人だから、何が欲しいのかも良く分からなかった。
それじゃあ、せめて手作りのケーキでも…と密かに練習を重ねていたけれど、結局食べられそうな物には仕上げる事が出来なかった。
―と、言う事で私は今、手ぶらであなたの部屋へ来ていると言うちょっぴり情けない状況。
私の自己嫌悪の気分を知ってか知らずか、あなたは暢気に外を見て『いい天気だね』なんて言って嬉しそう。
「―九ちゃん」
「ん?」
私が呼び掛けると、何時ものように微笑んで此方を振り返ってくれる。
「どうしたの?妙ちゃん」
「…九ちゃん、本当に何か欲しい物ないの?」
「無いよ」
こうやって聞いてみても、あっさりと答えられ本当に何の見当も付かない。
「でも、せっかくのお誕生日なのよ?何か…」
「本当に無いんだ。今、一緒に妙ちゃんが居てくれるだけで嬉しいよ」
「………」
思わず赤面してしまうような台詞を真顔で言われ、私の方が困ってしまう。
「私は何か九ちゃんにしてあげたいのよ…」
「…もう、もらったよ」
「え?」
「この間、僕にケーキを作る練習をしてくれてたじゃないか」
「あれは練習でしょう。それに、結局今日だって上手く出来なかったし…」
すっかり私も愚痴モードになってしまい、ブツブツ言っていると、あなたは目を細めて笑う。
「それで充分なんだよ、妙ちゃん」
「……」
「妙ちゃんが僕の為に練習までしてくれた、その気持ちだけで本当に嬉しいんだ」
「もう…単純ね、九ちゃんは」
あなたの言葉がとても嬉しいのに、素直になれずについ、そんな言い方をしてしまう。
「それより、天気もいいし何処かに行こうか?ハーゲンダッツ、買いに行く?」
「えっ?」
思わず身を乗り出すと、あなたはクスクス笑って、その方が妙ちゃんらしいよ、と微笑んだ。
「僕は元気な妙ちゃんが好きなんだ。だから僕の誕生日に落ち込んだりしないで…」
「…ありがとう、九ちゃん」
あなたのさりげない優しさが手に取るように伝わってくる。
ケーキすら上手く作れなかった私が、それを気にしないで済むように振舞ってくれているのが良く分かる。
「―九ちゃん」
出掛ける仕度を始めていたあなたは、呼ばれてこちらを振り返る。
振り返ったあなたの頬に、私はそっと唇を付けた。
「…妙ちゃん」
「九ちゃん、ありがとう。大好きよ…」
「…これだけ?」
「え?」
聞き返した途端、私はあなたに引き寄せられ強く抱き締められていた―。
そのままあなたの暖かい唇が私の首筋に触れる―。
「ちょ、ちょっと、九ちゃん駄目よ」
「…どうして?」
「だって、まだ昼間だもの」
「かまわないよ…」
「…駄目よ。…ねぇ、外に買物に行くんでしょう?」
わざと明るい声でそう言うと、あなたはちょっと腕の力を弱め身体を引いた。
「ね?、早く行きましょう」
「………」
何となく釈然としない様子のあなたに、さらにニッコリ微笑んでみせると、溜め息を付いてから腕を解かれた。
「…妙ちゃん、こう言うのなんて言うか知ってる?」
「なぁに?」
「蛇の生殺し…」
「九ちゃん、気持ち悪い事言わないで…」
「本当の事だよ…」
「それに買物に行けば、九ちゃんの欲しいものも何か見付かるかもしれないでしょ」
「…僕は欲しい物なんて無いよ」
「もう、そんな事言わないで」
「僕は妙ちゃんしか欲しくない…」
そう言って真っ直ぐに此方を見詰めてくる瞳と視線が合うと、私はもう何も言えなくなってしまう。
あなたは、私がこの視線に弱い事を知っているんだとしか思えない…。
だって肝心な時、いつも私はこの視線に黙らされてしまうんだから。
その瞳から目を逸らす事なんか出来なくて、そのまま見詰めていると、ゆっくり伸ばされるあなたの腕。
そのまま、そっと引き寄せられ、頬に感じるあなたの温もり―。
こうなったら抵抗なんて出来るはずも無く、あなたの視線を感じたまま 私は静かに瞼を閉じる…。
唇に感じる、あなたの温もり。
背中に感じる、あなたの掌の温もり―。
ゆっくりと唇が離され、再びあなたの瞳が私を見詰めた。
いつも何も言えなくなってしまうその視線だけれど、せめてこれだけは言っておきたい―。
「九ちゃん、お誕生日おめでとう―」
完
お題No43
九ちゃんのお誕生日ですね〜。おめでとう、九ちゃん\(*^▽^*)/ いったい何歳になるんでしょう?年とらないらしいから、ずっと18歳のままなのかな?
この二人にお金は絡めたくなくて、今回もこんな感じになりました。九ちゃんは絶対に何かもらうよりも一緒に居てもらう事の方が喜びそうです。
って言うか、九ちゃんって本当に欲しい物とかあるのかなぁ。私は本当に思い付かない。
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