妄想文J

□dolce
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甘やかされてる時間が幸せだなんて。




「あ〜・・・」

ぱたり、と自分の身体の上に圧し掛かってきた重さに、整わない呼吸のまま抱き寄せた。
首筋に擦り寄ってくる仕草が宛ら猫みたいで。

「くすぐったい、重い」
「あぁ、悪い。でももうちょい、このまんま」

今すぐにでもバスルームに行って汗を流したいのに。
心底愛おしそうに頬擦りしてくる恋人を、無碍にも出来ない。
第一、 好き勝手された身体が、動かない。

「あ〜」
「さっきから、なんだ」
「いや、別に」

頻りに唸ったりする癖に。
なんでもないと笑って見せるから、少しばかり腹が立って、その頬を抓ってやった。

「いって!!」
「馬鹿」

そう言ったら拗ねた様な声音になってしまった事に自分が驚いた。
機嫌直せよ、とキスしてくる跡部に、そんなんじゃないと言っても遅い。

「久々だと思ってただけだ」
「聞いてない」
「聞きたそうな顔してたぜ」
「してない!!」
「怒んなよ。な?」
「怒って、ない」
「なんか飲むか?」
「・・・水」

俺の上から退いた跡部が。
ベッドの縁に腰掛け、スラックスだけ履き、髪を掻き上げる。
一連の動作を半ば見惚れる様に眺めていた。
それに気付いた跡部が、けれど何も言わずに額に一つだけキスを落として部屋を出て行く。
何も纏わず惜しげもなく晒された均等の取れた背中には、先程俺が付けてしまっただろう爪跡が無数に残っていた。

込み上げてきた恥ずかしさに、シーツを頭まで被り直す。
もうこの際、シーツに汗とか体液とかが付着にしてしまうのも、気にしない。

跡部の言うとおり、久々だった。
だからと言って、跡部は何時もより意地悪で、散々泣かされて。
自分も自分で、わかっていながら跡部を煽る様な言葉を囁いて。
求めて、求められて、その時は必死で。
我に返った今、物凄く恥ずかしい。

「おい」

戻って来た跡部がシーツを剥がそうとするが、俺は頑なにそれを嫌がった。

「今更なに恥ずかしがってんだよ」
「煩い!!」
「出て来いよ。喉渇いてんだろ?」

ぽんぽんと背中の当たりを優しく叩く手に、ゆっくりとシーツから出る。
身体を起こそうとして、支える為に腰に回された腕に、素直に凭れた。
差し出されたグラスを一気に飲み干しても、跡部の腕は回されたまま。
寄り添って、じっと俺の顔を見ている。

優しさや、愛おしさが滲み出た、視線。

「見るな」
「見せろよ。全部」
「見ただろ、さっき・・・」
「あぁ。まだ足んねえ」
「今日はもう無理だからな」
「わーってるよ。だから見てるだけ」
「見るなと言ってるだろっ」

グラスを跡部に渡し、ベッドを下りようと立ち上がった瞬間。
膝から崩れ落ちてしまい、床に座り込む羽目に。

「大丈夫か!?」
「立てない・・・」
「みてーだな。よっと」
「なっ!!降ろせ!!」

こうも軽々と抱き上げられては、同じ男として悔しい。
しかも毎回お姫様抱っこってなんなんだ。

「暴れんなよ。シャワーだろ?連れてってやる」
「降ろせ馬鹿!!」
「大人しくしてな、お姫様」
「誰がっ」
「いいから掴まってろ」

偉そうに言う癖に、口元は緩みっ放しで。
そんな顔すら嫌いにはなれなくて。
また額にキスを落とされたらそれ以上俺は何も言えなくなってしまう。

跡部は、俺を甘やかすのが好きで、得意で。
こういう時に、愛されているんだと実感する。
幸せなんだと、思わずにいられない。

「跡部・・・」
「アーン?」

降ろされたバスルームの中で。
掠める様なキスを。

「・・・前言撤回だ」
「は?」
「今のはお前が悪い」
「何、・・・んっ」

仕掛けられた深い接吻に、滅多な事はするものじゃないと後悔すれど。
触れて来る指先が優しいから。
何より、目の前の男に自分は甘いから。
結局は許してしまう。




誰にも邪魔されず、二人だけ。
どろどろに甘い時間を過ごす。
たまにはそんな日も、悪くない。




FIN
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