□虚妄
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「君は失恋したんだよ」


彼の言葉にハッと振り返った。


「だから、泣いていい」


彼は悲しそうな笑みを浮かべ、両手を広げた。
さらさらと落ち葉が舞う並木道。
何度二人で歩いただろう。
ここで喧嘩し仲直りもした。


「泣かないよ、私は」

「そう……」


私は彼に一歩近づいた。
彼も私に一歩近づいた。


「私、失恋しちゃった」

「うん」

「あんたも失恋しちゃったね」

「うん」


また一歩ずつ縮まる距離。
私が泣かないと言ったから、彼ははらはら泣き出してしまった。


「悲しいね」

「悲しいよ」


私は両手を広げた。
彼は涙を振り落とすように首を振った。


「君の胸では泣けない」

「そっか」


私と同じだね。


「私、あんたの目から見てやり直せそうだった?」

「君は、俺と彼女がやり直せると思った?」

「…………」


きっと無理だっただろう。
それが答えだ。


「一緒にいたら、君は壊れてしまう」

「あんただって同じだよ」


お互い、麻薬のような恋だったね。


「あんたのこと好きだった」

「俺もお前のこと愛してた」


あと一歩ずつ近づけば、私達は触れ合うことができる。

でも、私達が触れ合うことは二度とない。





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