□か行の葛藤
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滑舌が悪い。

昔小学生の頃、言われていた。吃音障害で仕方がないといえば仕方がなかったのだ。
それがコンプレックスで、発声練習をし続け漸く他人と滞りなく話せるようになった。

小学校、中学校ではそれをもとにからかわれていたので高校はそうならないよう、少し遠いところに進学することにした。(そのためには学力が必要だったが、コンプレックスを克服した俺に努力して出来ないものはなかった)

進学してから、新しい友達が出来た。皆優しいヤツだ。(最悪でも滑舌が悪いとからかったりはしない)
時々、地元の友達が恋しくなる。いじられてばっかりで、離れてせいせいしているけれど、あれはあれで一緒にいて楽しかったんだな、と思えて嬉しかった。



二年にあがって、好きな人ができた。
コーラス部の桜山先輩。
去年の文化祭で同じ委員会となり世話になったのだ。
友達も背中を押してくれるので、俺は先輩に告白することにした。





先輩を体育館裏に呼び出し、待っていた。ひどく緊張する。あーあーあー。発声練習。よし、大丈夫だ。俺はいける。大丈夫大丈夫。

「湯原くん?大丈夫?」
「おわーっあぁ桜山先輩……。大丈夫です……」

まさか声に出していたのだろうか。なんてことだ。

「話って何かな?」
「あ、その…実は……」

心臓が痛い。口がもつれる。緊張が、緊張がヤバい。あーあーあー。発声練習。額に汗が浮かぶ。暑い熱い。

「その、さくらやがっ」
「だ、大丈夫!?」

しまった噛んだ。痛いイタい。赤面症ではないが、恥ずかしさで顔が熱い。きっと真っ赤だ。

「や、その、らいじょ……」

言 え て な い。
あーあーあー。発声練習。あれ?言えてるよな?かえるぴょこぴょこ……うんだいじょうぶだ。

「そっそのおへ…っ」

そうだテンパると出てくるのだ。昔の。高校受験も落ち着いて出来た俺が告白でテンパってどうする。先輩の顔が見れない。
これ以上喋れば滑舌が悪いとバカにされるかもしれない。(何が嬉しかっただ、まるっきりトラウマじゃねーか)
さてどうする、俺。
今危険を犯して告白するか、今日はひとまず誤魔化して帰るか。(どっちにしろ格好悪い事実は変わらない)

力が抜けてへたりこむ俺の前にしゃがみ込み先輩が言った。


「今日はここまでにしよっか。いつでもいいから焦らないでね?」


「……は、」

目が合うとにこりと笑う先輩は可愛い。部活行ってくるね。……はい。

一人になって考えて。
ええと、つまり?わからない、いやわからないふり?



先輩の一言で、俺の葛藤は増えていくのである。


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 き く け こ
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