メイド
□もしも...『 短編 』
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海軍本部の一室、その大広間にこの六日間で選び抜かれたメイドが呼び出された
報道部員、海兵、民間人と大勢の見守る中、現れたのはたったの二人だけだった
舞台の両端から向かい合うようにして、まるでお互いを意識させるかのような登場演出をさせ
執事長が興奮気味に紹介をする
そんなものは耳になど入っては来なかった
目の前に、あの無表情が私をまっすぐに見据え、視線をそらそうとしない
一歩、また一歩と距離を縮め、手を伸ばせば届く距離まで近づいて二人同時に会場の人々へと深く頭を下げる...
「奇跡的に残れたのね...」
「そのようです_」
無表情は感情のない声でそう返事を返した
二人の会話など、盛り上がる会場内の誰の耳にも届かない
「最終競技を発表させていただきます...」
執事長がわざとらしく緊張したような口ぶりで話す...
「ただいまより、私の引き当てたクジに当たったご主人様を喜ばせたメイドが...今回の優勝者となります!制限時間は10分!!クジには三大将のどなたかの名前が書かれています、当てられたいずれかの方はステージに上がりこちらの用意した舞台裏のセットへと移動していただきます
それでは、メロさん、ティアさん、健闘を祈りますよ____
ご主人様は...
大将...クザン様です!_______」
持ち上げられたボールは青いボールで、青雉と書かれている
ティアは好都合だわ_と言わんばかりに笑みを広げるが、メロは自分とは関係のない話を聞かされているかのように無関心そうないつもの表情で遠くを見つめている...
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「ご主人様、コーヒーです」
慣れた手つきで入れられた珈琲、それはティアがいつも作っているような薄い白湯のようなものではなく、香りも味も納得してしまうおいしさで入れられている
彼女のことだ、大観衆の前では上の空でもいられないのだろう
俺はゆるりと笑みを浮かべ、おいしいよ_と声をかける
恋をする少女のようにティアは微笑んで、頭を下げた
たったの10分だ、その間にできる事といえば限られる_
先手のティアの方が有利...
それに...
メロちゃんは...
浜辺での彼女の泣き顔が脳裏をかすめた
彼女は俺を喜ばせようなど...
きっと考えない_______
キィッ_とドアが開き、無表情が頭を下げ、持ち上げ視線が交わる...
切なさに耐えきれず、視線を外そうとしたとき、彼女の表情がまるで朝日を浴び開花する花のようにほころんだ
それから目を離せるはずもなく、距離を縮める彼女を夢じゃないかと疑うように呆然と眺める...
「ご主人...」
白い両手がそっと頬に触れ
求めていた彼女のぬくもりがじんわりと胸を温める
「メロちゃん_?」
「約束、した筈です_________ 」
そっと重ねられた唇、答えるようにして閉じる瞳...
「ありがとうございました...私なんかを庇っていただいて________」
砂浜での彼女のセリフを思い出しハッ_とする_
「...」
状況が理解できない中、彼女の手が俺の頬から離れ、微笑みの消えた顔がドアへと振り向いた
そこには怒りをあらわにしたティアがメロを睨み付けていた
「信じられない!メイドがこんな...こんなことしていいと思ってるの!?」
「いいえ、ご主人様を喜ばせることを優先した結果です」
「はぁ!?いいの!?私はあんたの過去を知ってるんだから!!!」
「過去?私が前回のご主人をナイフで刺したことでしょうか?」
「そっそうよ!」
「その事でしたらセンゴク元帥もメイド長も執事長も了承しています」
「は...;?」
「貴方のようなただのメイドごときが調べて簡単に浮上するような過去を、上司や幹部が知らないとでもお思いですか?それに、ご主人...」
「ぇ?」
「ご主人は私を雇うと決まった時に十分な説明を聞いている筈ですが...?」
「あ〜っと...;」
適当に聞き流していたなど言えない
「ありえない...ご主人様を傷つけたメイドなんか聞いたことがないわ!」
「メイドと奴隷をはき違えたご主人様に出会ったとき、もしくは暴行を受けた場合、正当防衛は許可される_と...」
正当防衛_?ティアはその場に力なく崩れた
「ご主人、どちらを選びますか?」
無表情が俺を見る______
「そんなの、きまってるじゃないの______」