再会

□再会
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彼が呆れる気持ちもわかる...




いつでも私に笑みを向け、優しい表情しか印象にない彼の表情は先ほどからずっとこんな感じで...

そうさせたのは自分のくせに、私は彼に、まだ優しさを求めてしまっていたのだと気が付いた

エースの背中の白ひげ海賊団の刺青が薄暗い部屋の中、月光で浮かび上がる


「好きにすればいい...?」


メルは俺の言葉をおうむ返しした、その言葉の泣き出しそうなひどく震えた声に、エースは振り向いた

座っていた彼女はいつの間にか立ち上がり、俺を真っすぐに見上げ、その大きな瞳から大粒の涙を二粒、瞬きと同時にはじき出した...


「っ...」

「好きにします...」

「なんで...」

なんで泣くんだよ...お前が...

泣きたいのは俺の方なのに



彼女の泣き顔に一度驚いて、その後に下唇をかみしめた
言葉を探しても、彼女にかける言葉が見当たらない





「...嫌いです...みんな...キライ...」

子供のように、涙を両手で拭いながら彼女の口から嘘が溢れてゆく

嫌いなんて...嘘だってわかってる...

でも、これが彼女が自分を守るためにやってきた唯一の方法なのだろう...



俺が...彼女を守りたかった

盾になりたかった筈なのに...


涙を止めようと俯くメルの顔に、そっと手を伸ばした


バシッ!!___


「やめて...」


低い声...

鋭い憎悪と侮蔑に輝いた眼が俺を見て、差し出した手を払いのけた...


「イテェ...」

払いのけられた手がジンジンと熱を帯びて痛む
その手を庇うように反対の手で握って彼女を見下ろす

まるで敵に追い詰められて最後のあがきで敵を睨みつけるように...

怯えた瞳が俺を見つめる...


俺の言葉に彼女の表情が青ざめて、俺の手を見た...

「ぁ...」

彼女の爪があたり、俺の手の甲から微量の血が滲んで...

それを見て、涙も止まって


あぁ...


と後ずさり、何か怖いものを見たかのように体を震わせて...


首を小さく横に振った...


なぁ...何にそんなに怯えてるんだ?

俺がこんなことで怒ると思ってるのか?

手より...胸の方がよっぽどイテェ...


何にもしねぇよ...


メルが嫌がることなんか...何もしない...


だから...



「ごめんなさい...私...っ...ごめんなさい...」



頼むから...そんな目で見ないでくれ...








「おい...坊主...誰を泣かしてるんだ?」


シャンクスさんの声が聞こえて、私の視界が遮られた

後ろから私の両目を手が覆って、背中にシャンクスさんの胸が当たっていて



荒れていた息が徐々に正常に戻ってゆく...





傷つけたかったんじゃない

傷つくのは私だけでいいのに...


エースさん...今...あなたはどんな表情をしているの?


気になる...だけど見たくない...


「ごめんなさい...ごめんなさい...」


「......」


彼女の悲し気に震えた声が許しを請うたびに、胸にナイフを刺されたような痛みが走る...


「...しばし、メルは預かる...頭を冷やせ...」

シャンクスの言葉に何も言えなかった

引き留めたいのに喉は張り付いて声にならない息が吐き出ただけで...



シャンクスに抱きかかえられた彼女は、まるで...

守られるようにして連れられてゆく...

彼女の白い小さな手が、シャンクスの服をギュッと握って...

悔しいのに...

それを見送ることしか出来なかった


________________________



「メル...」


彼女の泣き顔を見たのは初めてだった

無表情以外にはその整った顔を崩すことが滅多にない彼女が

自分以外の男に泣かされたのを見て、居てもたってもいられずに、連れ去ってきてしまった


俺の肩に顔を埋めて、時折涙を堪えようとする息遣いに、名を呼び背中を優しく叩いてやることしか出来ないのに...


レッドフォース号に掛かる橋の手前で、シャンクスは樽に座りメルを膝にのせ、まるで子供をあやすようにしながら、夜空を見上げた

やはり自分の船じゃないここは...

居心地が悪い...



「...しばらく俺の船に乗るか...?」


いつもは冗談交じりに言う言葉だが、今回は違った

このまま、彼女を置いていく気にはなれない


もし、首を横に振ったとしても...



「はい...」


「...よく言ってくれた...」


顔を上げた彼女の涙目が俺を見上げて、震えた声が確かに、はい。と答えた

彼女の頭を軽く撫でると抱きかかえて立ち上がると、モビー号からレッドフォース号へと彼女を堂々と連れ去り、甲板へと降りた

彼女はまだ涙が止まらない様子で、俺の肩にすり寄る

それがたまらなく嬉しくて、心地いい...


夢のような気分、とは、まさにこの事なのだろう...


「...」


視線を感じ振り替えると、彼女の友人...白髭の今日入ったばかりの新たな家族蘭と名乗っていた女が、こちらを眺めるようにして見つめていた


「いくのか...?」


蘭の声に、メルの肩が強張り、僅かに顔を持ち上げそちらへ視線を向ける

「...私に...家族は...重すぎるようです...」


「ふぅん...そ...ねぇ、メル...本の内容、覚えてないでしょ?ちゃんと思い出した方がいいよ?」

「...内容...?」

メルのつぶやきに蘭が深く頷いた
真剣な表情で、思い出せ_と瞳がそう言っている


だが、本の内容などほとんど覚えてもいない...

だって、読む、と言っても、めくっていただけ、だし

そもそも、一巻から順番にも見ていない

最新巻を見て、真ん中あたりを見たり、一巻を見たり...

見ていない巻だって沢山あった...


それに...蘭が伝えようとしていることがわからない...


考えを巡らせているうちに蘭は私たちに背中を向けていた


「思い出せばわかるよ...それよりも...私の親友に何かあったら...ただじゃおかねぇからな?」


ユルリと流し目をするようにシャンクスを睨んだ...


「蘭さん...お父さんには適当に言い訳をよろしくお願いします」

「っ;お前なぁ...;ハァ...ったく...」


いつもの無表情、その中の瞳がウルウルと涙を蓄えているのを見て蘭は部が悪そうに溜息を吐いてその場を立ち去る


了承してくれたと思ってよいものなのか...

ソレよりも、私はまた彼女と会う気はあるのだろうか...

いや...望み薄だ...


そもそも、彼女がこちらの世界に来てしまったのは自分のせいではないのか?

昨晩蘭もこちらへ来ればいいのにと願ってしまったのがいけなかったのではないのか...


やはり私は不幸しか運ばない...


メルは一度シャンクスを見上げまたその肩に額を乗せた

「...すみません...落ち着いたらこの船か「降ろさねぇ...絶対に...離さねぇ...」

私の言葉を遮り、シャンクスさんは怒るべきなのか、嘆くべきなのか判断に困っているような瞳で腕の中の私を見下ろした


その言葉がどれほど今の私に救いになることか...

彼は知っていて言ってくれたのだろう

私の欲しい言葉を...




絶対に離さない...






「...ありがとう...ございます...」














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