再会

□愚問
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次の日、モビーは食糧調達のため白髭の傘下である島へと船を向かわせた


暫くすると三角の島影が見え、近づくにつれて島がはっきりと見えだした


岩肌をむき出しにした山の麓には囲むようにして緑の木々が生茂り、またその木々を囲むようにして町が広がっている


上から見るとドーナツのように見えるだろうその島の名はそのまま『ドーナツ島』と言うらしい

何とも覚えやすいネーミングだと思いながらメルは海の上を滑る様に進むモビー号の手摺からその水面を見下ろした


海は透き通るほどに綺麗で、海の底のサンゴがくっきりと見えるほど
その光景はまるで宝石が海の底に沈んでいるよう
キラキラと赤や青や緑、様々な色に輝いていた






「落ちるぞメル___

そろそろ到着だよい、準備は出来てるか?」




「平気です___


...マルコさん」



彼女はいつもの無感情な調子でそう言うと整った表情を微笑ませることもなく、やはり無表情のまま視線を海からマルコへと向けた




「何だよい」



「...私にも、守れるでしょうか?」




メルが何を思いそう言ったのか、マルコにはすぐに察しがついた

蘭、彼女を思ったのだろう

つい今朝方の事だ...蘭は必ず戻ることを約束し、このモビー号から旅立った


起こるかもわからない未来を見据える二人が必死で何かと戦おうとしている...



悪魔の実で太陽の能力を持つメル、だが戦闘時に参戦することは一度だってなかった


彼女の戦闘能力が如何程のモノなのか_ 




考えずとも解る...




太陽に勝るモノなどあるのか?





「あぁ...守れるよぃ...きっと___ 」




眩しい太陽を見上げ、愚問だな_と呟きながらマルコはそう答えた







船は海岸近くの波に揺れながらも海岸の汀に近寄って行き、ギィギィと船を軋ませながら着岸した



久々の陸に兄弟達が歓喜に騒めきその殆どが船に残らず地面へと降りて行く

勿論、その中にエースの姿もあり

「一緒に街の方へ行こう 」と誘われたがメルは「後で行く 」と言って皆を送り出した


五分も経たないうちに船の上は静かになり、残っているのは昨夜の宴で二日酔いを患った数名と船長である白髭、そしてメルだけとなった





「お父さんは行かないの?」



甲板の中央で椅子に座り酒を飲む白ひげ

いつもは賑やかでメルの声など響きもしないが、今日はよく通る___


彼女の凛とした声に白髭は口元まで近づけた酒瓶を降ろし、彼女へと視線を向けた





「あぁ、そのうちな...
それよりメル、エースと恋仲ってのは本当か?」



そのうち、と言っては見たがきっと船からは降りる気はないのだろう
その証拠に父の横にはいつもよりも多めの酒瓶が積まれている

それにしても、エースさんとのことがもうお父さんの耳にまで届いているとは...

隠す必要もない、メルは頷き答えた


「事実です」



年頃であろう娘は顔を赤らめるでもなく、さらりと返答した

だがそれはいつもの事だし、想定内のことだ





「そうか...






グラララ...アイツは良い男だ
メル、オメェに守られるほど弱くもねぇ...」




「......」




全てお見通し_と言う事だろうか。

父の優しさと厳しさの入り混じる強い視線がぶつけられる


戦闘に加わらずに守られてばかりいたメルに何ができる...


無理をする必要はない____



苦しむ必要はない_______



嫌なことは父である俺に任せておけばいい______










「私...
皆を守れる勇気が欲しい...」



小さな声ではあったが、彼女の拳がぎゅっと握られ、覚悟のような真剣な表情が白髭を見上げた


甘やかしてやりたかったが、娘はそれを望まない




「勇気...

そうか、勇気か...」




「私には誰かを守る勇気がない...
今のままじゃ...

きっと何もできない...」



どうすれば勇気を手に入れられる?


娘の瞳がそう問いかける___



「...



家族を失うかもしれねぇ時もある...
そんな覚悟も勇気も俺は持ち合わせちゃいねぇよ
俺が守れるものなんざぁひと握りだ...


心配するんじゃねぇ、お前に何かありゃ俺が、兄弟達が解決してやらぁ...

ちったぁ人を信じる勇気でももったらどうだ?」



その辺の人間よりも様々なことを経験し、その運命に弄ばれ、そこを彷徨い今を掴んだ誇り

父の言葉には断固たる自信のような強ささえ感じられた


こちらの心を何もかも見透かして、優しく理解するようなその瞳は私を映し、いつものように微笑むのだ




「貴方を父と呼べて幸せです...」



喜びと安らぎにㇷと微笑んで、言い終えた頃にはまた無表情へと変わっていた








秘やかな情熱が静かに心を満たしてゆく...






私は、白ひげの娘なのだから...





「きっと平気...私には家族がいるもの...」





















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