メイド

□もしも...『 短編 』
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画面の中で、彼女はまるで別人のようだった


笑顔_笑顔_笑顔__________


まるでそれが義務付けられたような...



壊れてゆく...彼女の心が...


すぐ傍で音を立てて崩れてゆく____


手を差し伸べれば...


それを止めることは出来るのだろうか...


____________________________





「何か手伝いましょうか?」


タシギが暇を持て余し、部屋を掃除するメロの後を追いかけては三十分おきにそう声をかける


「いいえ、タシギ様は長い航海にお疲れでしょう...どうぞおやすみになって下さい」

「タシギ!邪魔だ」

「すっすみません;」


ジッとして居られないのか?テメェは_
スモーカーの視線が苛立ちを含めてタシギを睨みつけた

それにしても、メロと初めて会った時の、あのすまし切った表情はどこに消えたのだろうか...

体調が悪く表情を作ることが出来なかったのか...?

彼女の頬笑みは見たが...

あの、柔らかなキスの後に...


思い出しまた赤面しそうな顔を机の上に向けた


ジーっと虚ろな両目が俺を見つめている

映像電伝虫だ...


チッ_と舌打ちをうつと、電伝虫はフッ_と片方の頬を持ち上げ、メロへと視線を変えた



ぶっ壊すぞ...____________



暫くすると見違えるほどに部屋の中は綺麗になった、だが部屋中に立ち込める葉巻の煙が空気を重く濁らせている


「ご主人様、昼食は何がよろしいですか?」

「好きにしろ」

「かしこまりました...っケホッ...っ...しつれいしました」

「.........」

気が付かなかった、この煙になれていない人間にはあまりにも苦痛な空間であっただろう事を

咳き込み涙目で笑顔を作ったそれさえも、欲望を掻き立てられる...


今、彼女の唇を奪えば...あの時のような...


求められているかのような微笑みを見る事は出来るだろうか__________


「ご主人様?」

「っ、昼飯の後はタシギの練習相手になってやれ、そのぐらい出来るだろ」

「かしこまりました_ 」

メイドは主人を守るために少々の訓練を受けている

軽い練習ならば付き合えるだろう...

それに...外に出れば煙たい空気を吸うこともない______________


昼食時もタシギは煩く『おいしい』と絶賛していた
何も言いはしなかったが、彼女の作ったものはどれも繊細なうまみで舌を喜ばせた






「お手柔らかに、よろしくお願いします」

「はい!大丈夫です、力量を測りたいのでまずはメロさんが攻めてみて下さい、受け止めますから」


まるで弟子に言うような口ぶりでタシギは木刀を構えた

する事もなく、結局二人を窓から眺めていたが

メロが木刀を握り、構えをとった瞬間、口元から葉巻を落とした...


直感がこういう、タシギは負ける______

彼女の指先から木刀の先へと、不思議ともなんとも形容できない神秘的な変化を感じた...


飛び交う蝶を叩き落とす猫の如く、正確にして敏捷だった

振り下ろされた木刀を受け止めることすらできず
まだメロの立っていた場所を見つめていたタシギの右肩の数センチ上で木刀はピタリと動きを止めた...


「っ...;お見事...です...;」


彼女を見下していたわけではない、目が追い付かなかったのだ...


「姿勢を低くするのです...そうすれば、一瞬消えたように見えます」


飛ぶほどの瞬発力は私にはないので_

メロの晴れやかな笑顔がそう言って、肩の上にトン_と木刀を軽く下ろされた


「死にますよ...私が敵だったなら______」


ゾワリと何かが込み上げる

怒りとも言えない...これは、喜びだ...

自分よりも強い相手が目の前に居て、自分を挑発しているのだ...


これほど興奮する場面など出くわすことは人生でそうないことだ__________



「ふん...」


鼻で笑い窓から視線を室内へ向けると、同じく外を眺めていた電伝虫と目が合った

虚ろだった両目はメロ達の訓練を見て、大きく見開いていて、今の見たか?_と言いたげに俺を見る




やっぱりぶっ壊してぇ..._________




「本日はお世話になりました」


涼し気な笑顔を浮かべ頭を下げるメロ、それとは対照的に泥だらけのタシギ...

まさかメイドに押されるとは_頭を抱えたい気持ちを堪え、メロの頭を二回軽く撫でた


「世話になったな、青雉にもまた顔を見に行くと伝えておいてくれ」


何気なく言った言葉だった、だが、彼女の目が僅かに揺れた...

その表情は笑顔のまま...


「クザン様は...私のご主人様ではありません、失礼しました_______ 」


「っ...」


どういう事だ?_その言葉は声にはならなかった_


カシャン_という音と共に片手が重くなりその場に片膝をついた


俺の疑問を阻止するかのように、メロにより海楼石が付けられたのだ

彼女は笑みを貼りつけたままその場を去ってゆく






それ以上その人の話をしないで_______










彼女の背中はそう言っているように思えた...















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