再会

□愛染
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その船はモビー号ほどは大きくはなかったが、どこか圧倒的な凄みを感じさせた...


「おー!早かったな!」


ストライカーの音に気が付いたのか、その船から数人がこちらを見下ろした、その中の一人、赤い髪の男が無邪気そうな笑顔を浮かべ片手を大きく振って出迎えた


エースに抱えられ、降ろされたロープのはしごを上り甲板に降りると海賊らしいと言えばいいのか、ガラの悪い...と言えばいいのか...

男たちが物珍しそうに集まってきた


「久しぶりだなエース...で、そのお嬢ちゃんか?俺に会わせたい人、ってのは」


先ほどの赤い髪の男が笑顔のまま私を視界に入れた

あぁ、そうだ、この人は知っている...主人公の恩人として登場していた人だ


「記憶なくてな...赤い髪の男が、どうやら知り合いで居たみたいなんだ」


ピクリとも動かないメルを見下ろして、赤髪の反応を伺うエース...


「メルと申します...」


自身の嘘が真になるはずはない、この場は適当にやり過ごそう

そう思い頭を下げた時だった、赤髪が突然、私を力いっぱい片腕に抱きしめた


「メル!メルじゃねぇか!探してたんだぞ〜!」


まるで生き別れた恋人と再会を果たしたような反応にメルは首を傾げた


この人と接点があったとは思えない、というか、そんな覚えはない


だが、否定するわけにもいかない...

だって、赤い髪の人と接点があったと仄めかしたのは自分自身なのだから


「っ...そ、そうか、やっぱりシャンクスの事だったんだな...よかった...んじゃ...俺は...帰る...」


何でもないようなそぶりをして見せるはずが、動揺がそうさせてはくれなかった

引きつった笑顔に揺れる瞳、それに言葉は途切れ途切れで...


彼女とシャンクスの関係をこれ以上知ってしまうのが嫌だった...


先ほどまで浮足立った心はまるで奈落の底に沈められたかのように重く痛む

俺は...いったい何を期待していたのだろうか...


「ご苦労だったな、気を付けるんだぞ」

赤髪の陽気な声に苦笑いとも言えない顔を浮かべて片手をあげると速足で甲板から降り、ストライカーへ飛び乗った

彼女は俺に何も言わなかった...


これでいいんだ...







「なぜ...嘘を付いたのですか?」


「お前だってそうだろ?」


エースの去った後、無表情と無邪気な笑みが向かい合って何とも言えない近寄りがたい空気を漂わせていた

クルー達は、お頭が面白いことしてるぞ、あのかわいい子は誰だ?_と遠巻きにそれを見物している


「...そうですね...では...なぜその嘘を受け入れたのですか?」

「面白そうだから」

彼は本当に面白いという風な笑みを浮かべ、背の低い私に視線を合わせる様に腰をかがめてそう言った

「...そうですか、もう充分でしょう、私をこの船から降ろして下さい」

「嫌だと言ったら?」

「従うまでです」

益々面白いと思ってしまった
整った表情はずっと固まったままで、赤い唇だけが丁寧に言葉を連ねる

仲間以外の誰もが船の旗を見ただけでも顔を真っ青にさせるというのに...


ましてや戦闘も知らないような華奢な女がまっすぐに俺を見て身じろぎもしないのだから


「なら答えは決まってる、嫌だ」


彼は無邪気な笑みを絶やさずにそう言った、私はエースさんの去っていった方向に目を向け、糸のような細いかすかな寂しさを胸に感じたが、今の私には従う事しかできなかった


ただ、流されるだけ...


いつもの事、それが一番自分を守れる__


「...わかりました」


私がそう言うと、彼は片腕に私を抱きかかえた、抵抗することもせず、身を任せると、遠巻きの海賊達からブーイングと喝采が巻き起こる

お頭だけずりぃ!_
男になってこい!_


と投げられる言葉は様々だった


連れ込まれた先は船内の彼の部屋らしき場所、そこには高そうな家具が並べられており、宝石やらがそこら中に無造作に置かれている

よっ_と床の上に下ろされて、シャンクスの手が私の頭を優しく撫でた


「すまねぇな...実はお前の嘘に乗っかった方が都合がいいのかと思っていた、しかし...戻りたかったか?」

先ほどまでの笑みではなく、優しさのあふれた笑顔がそう言った

「...いえ、かまいません」


私の存在はどこに居たとしても、たいして変わらないだろうし...

「そうか、まぁそこに座れ、なにがいい?酒...はやめとくか、そうだ、この前珍しい桃のジュースを買ったんだ、それでいいか?」

「はい、いただきます」

シャンクスの指さしたソファーに座ると、彼は満足そうに頷いて高級そうなグラスにジュースを注ぎメルの前にある机にそれを置き、自分はワインをグラスに注ぎ前のソファーに座る

いただきます_とグラスに口をつけた彼女を何気なく見ていて、思わず見とれてしまった

心臓がうるさいほどに高鳴る、それは手持ちの何もかもを無償で差し出してもいいほどの笑顔だった

例えるなら美しい上品な花...

こんな風に、花のように微笑むことのできる人を、初めて見た...


「おいしい...」


彼女の視線はグラスの中のジュースへ向けられていて、その言葉に我に返る

咳払いを一つして、グラスの中のワインを一気に飲み干した

酔うはずのない量だが、気分はまるで酒に酔った時のような満足感と掴みどころのないふわふわとした感情

彼女の花のような微笑みはそう長くは見られなかったが、特別なものを見てしまったような気がして、シャンクスは素直に表情を綻ばせた













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