再会

□愛染
3ページ/4ページ





メルの居ないぶん軽快な走りで、ストライカーが波を豪快に切り細かくなった水しぶきが後ろで上がる


エースは先ほどまでやるせないような哀感に胸を痛めていたのだが
同時に怒りも感じていた、そして今は怒りの方が勝っている


俺に礼も頭も下げることもしないで、なんて恩知らずな女なんだ

自分自身にも腹が立つ、あんな女を必死に探したり、心配したり...

今だって...


「...」


泳いだ方が早いくらいの速度まで減速してゆくストライカー

振り向きはしないが、またこみ上げてくる...

たまらないほどの虚脱感に目を伏せた...



もう二度と、彼女には会えないのかもしれない...



あんな別れ方でよかったのだろうか...


後悔が押し寄せて、思わず振り向いた

そこには距離はずいぶん離れたが、先ほどと同じ場所に浮かぶ赤髪の船

陽気な笑い声やら話し声がまだわずかに耳に届く


連れ戻すような勇気は生まれなかった

エースは視線を変え、前を向いた


彼女が幸せになれるのであれば、それが一番いいじゃないか...


_______________________


彼らはまだ日が高いというのに甲板に出て、当たり前のようにアルコールの入った食器を合わせた、それはお祭り騒ぎと言ってもいいだろう

メルは話し声も満足に聞き取れないほどの騒音に不快を感じたが、表情には出さずに言われるがままにシャンクスの隣に腰を下ろしバカ騒ぎをする男達を興味なさそうな顔つきで見やる


「酒は飲めねぇのか?!」

シャンクスが耳元で声を張ってそう言った

声を出しても彼の耳には届かないだろう、メルは頷くだけの返事を返し、徐に席を立った

「どうした?」


その行動に僅かだが静かになる男達


「...部屋にいても構いませんか?」


なれ合いをしたいわけではない、この場は私にとって苦痛のほかはないのだから

私がそう言うとシャンクスはにっこりと笑みを浮かべた

「あぁ、かまわねぇぞ、疲れただろ、ゆっくり休めばいいさ」

手の届く距離の彼女を座ったまま見上げ

頭を撫で、名残惜しそうに細い首に添えられた手

彼女は、それを拒むこともせずに感情のない顔で俺を見下ろすと、ふと視界を俺の左の肩にうつした...

何か言いたげでもあるその顔を見て、左腕のない俺の事を心配してくれているのかと思うと麻酔のような恍惚感が襲い、彼女を抱きしめたいという飢えにも似た欲望が沸き起こる

「...では、失礼します」

「ぁ、あぁ...」

彼女の白い手が首元に伸ばしていた俺の手をやんわりと押しのけ、背中を向けて先ほどの俺の部屋へと去ってゆく


彼女を目の届く距離に置いておきたいと思った、だがそれを我慢し、平然を装い愉快そうに笑って仲間たちと宴の続きを始める

こんな感情は久々だった...

他人に一瞬にして心を持っていかれるような...


まいったな...



彼女も同じ気持ちになってほしいという特別な感情が胸を焦がす...




宴は空が茜色になっても続いていた

流石に浴びるように飲んでいた仲間たちはその場で寝たりと、酒に溺れる姿がちらほらと目立ってきた

ルウは相変わらず変わらぬペースで肉を頬張っているし、ベンはマイペースに酒を飲みタバコに火をつけている...

幹部の誰かに相談するべきなのか...


彼女の嘘に乗っかっただけで、俺は彼女の事を何も知らないし、彼女も俺を知らない...

今日会ったばかりなのにもう何十年も片思いを続けている気分で胸が苦しい


だなんて、いったい誰に...


そう思った時だった、ヤソップが笑みを浮かべながら、お頭_と声をかけてきた

そうだ、ヤソップは妻子持ちだし、こういった話は一番理解してくれる筈

何か楽し気に俺に話しかけてくるヤソップを見上げるが奴の言葉など耳には入ってこない


「ヤソップ、折り入って話があるんだが、少しいいか?」

「そりゃぁかまわねぇけど...」


ヤソップは急に真剣な表情を浮かべるシャンクスを見て、珍しそうに少し驚き顔を浮かべる

じゃぁさっそく_と船内の一室に二人で密談をしに入ってゆく




「ブッ...ドァッハハハハハハハハッ!!!!そりゃお頭、かんっぜんに落ちちまってるじゃねぇか!!!!ハハハハハッ!!!!」


あー腹が痛い、もうやめてくれ面白い!_とその場に屈み込んで笑い転げるヤソップ

「なっ///俺は真剣なんだよ///!」


耳まで真っ赤にしてシャンクスはヤソップに怒鳴る様に言ったが、それはヤソップの笑いを更に倍増させた

「まぁ、確かに可愛いし綺麗な子だけどなぁ」

「何考えてやがるのか...」

「っ///!?」


気が付けばルウとベンが笑みを浮かべ、部屋に入ってきていた、ベンに限っては部屋のソファーに座り俺を憐れむような含み笑いをこぼす始末

ヤソップはまた馬鹿みたいに笑いだすし...


「仕方ねぇだろ///お前たちだってあいつの笑顔見たら...///」


そこまで言って、彼女の笑みを思い出すとどうしようもなく表情が緩んでしまう



海賊としては誰もが認める存在だ、それが俺たちの船長...

男としてはどうだ...

肝も据わっているだろう、喧嘩も強いし、信念だって度胸だって...


しかし、恋愛においては目も当てられないほどだったとは;

十代の男でも友達に恋愛相談などしないというのに;

「好かれようとするんじゃねぇよ、嫌われないようにすりゃいいんだ」

ルウが骨付き肉に噛みつきながらそう言った


「でもよぉ、ありゃどお見ても、お頭嫌われてるぜ」

ヤソップが笑いすぎて泣けてきたと目の縁を片手で拭ってそう言う


「ククッ...ま、力みすぎねぇこったな」

ベンがにやりと笑みを浮かべ煙草に火をつけた



「グ...うっうるせぇぞお前ら///もぉいい!!!」


俺は耐え切れずその場から逃げる様に立ち去り、甲板に出たがまた飲みなおす気にもなれない

ちらりとメルの入っていった自分の部屋の方を見て、少し迷った後に覚悟を決めてドアノブを押し開けた_________













次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ