再会

□再会
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私はもらったネックレスを何度か手で触り、幸せな気分のまま、宴の席から離れようとした


「メル、せっかく来たんだ、一杯やらねぇかい?」

そう声をかけて来たのはイゾウだった、いつもながらにその瞳は落ち着いていて...
頬笑みをたたえたその表情は夜桜のような色気を感じさせる

「...一杯だけなら」

酒の一滴でさえも、いつもなら断るのだが、今日は違った、蘭との再会、思わぬプレゼントも貰い気分が浮ついていて...

それに、イゾウの隣には視線を合わせようとしないエースがいた...

先ほどの新たな家族との関係が気になっているだろうし、彼には話さなければならないと思っていた

誤らなければと...


なのに...


目ぐらい合わせてくれてもいいと思うのですが...




「ぉ、なら、ここに座んな」

イゾウはメルの気が変わらないうちに!_とエースとイゾウの間に席を空け、そこを二度叩いた

「失礼します」

言われるがままにそこへ座ると、他の兄弟達も物珍しさに視線を向けてきた

「酒なんて飲めるのかよ」

ケッ_と聞こえてきそうな口ぶりでエースが隣でぼやいた...

「エースさん、もうお酒に酔ってるのですか?」

「これからに決まってんだろ...」

二人の会話はイゾウには聞こえておらず、大きなジョッキに入ったラム酒が差し出された

一杯だけ、とは言ったが...

まさかのサイズに手を伸ばすのを躊躇っていると、エースがまた、フン_と小ばかにしたような笑みを浮かべた

「...乾杯」

両手でジョッキを持ち、軽く顔の前で持ち上げるとそう言って、口を付けた







俺が家族としての距離に悩んでいる時に
突然の新しい家族との知り合いのような抱擁
それに、今までどれほど進めても飲まなかった酒をイゾウの誘いですんなり了承して

...腹が立つ...

事実、一番腹が立ったのは、自分に対してだった

メルの助けを呼ぶ声に、俺は一歩も動くことが出来なかった...

敵船の船長がいち早く動いたのを見て...

悔しかった...




彼女は、酒を水でも飲むかのような無表情な顔で悠然と飲んでゆく

コクコクと喉が動く
口を離すと三分の一の量がジョッキから減っていて
ドン!と床にそれを置き、腕で口を拭うと、そのままの無表情で俺を見た


「飲めますよ」

「...」


気が付いたのだが、彼女は俺に喧嘩を売っているのか、もしくは俺に挑戦状でも叩きつけてきているのか...

どちらにせよ先ほどから俺に対しての態度が癇に障る

エースは片眉をヒクリと一度痙攣させ、苦笑いを浮かべると自分のジョッキの酒を飲みほした

「飲んだうちに入らねぇよ」

「...」

勝ち誇ったようなエースの表情と言葉にメルもジョッキに口をつける

イゾウはイケる口じゃねぇか!と喜んでいるし、周りの兄弟達も二人の飲みっぷりにボルテージが上がる

必然的にエースとメルとの酒飲み対決のようなモノが勃発した

盛り上がる兄弟達の歓声、視線に苛立ちを交え時折見合うエースとメル

赤髪もその歓声に気が付いていたのだが、仲間に囲まれるメルの邪魔をしてはいけないと思い遠巻きにそれを眺めては白髭との会話を弾ませる

だがそれも、メルが五杯飲んだ所で終了してしまった

「もうお腹いっぱい...」

酔っているようには見えないが、何食わぬ顔がフゥ_と息を吐いて、お腹を片手でさすりそう言った

その愛らしい行動に兄弟達は口を揃えて可愛い!俺の妹!!!!≠ニ親指を立てる




「あんまり飲んでぶっ倒れちゃぁ困るんで、そろそろお開きにしようゃ...なぁ?」

イゾウがそう言ってメルの頭を撫でると頷くだけの返事をする可愛い妹

無表情で掴み所のない妹ではあるが、自慢の妹だ...




『お酒は嫌いです...人を変える力を持っているから...』

彼女の口からそう言われたのは、数か月も前の事だった...


初めは赤髪や、ここの家族達の事を話しているのかと思っていたが

彼女の口振りや瞳の動きは、どこか遠い記憶を思い返すような...

そんな風に見えた...

『へぇ...なら...おめぇさん、俺も人が変わったように見えるのかい?』

『...はい...イゾウさんがシラフなら、私に声などかけません...』


彼女の言う通りだと思った

酒の入ってない俺は、何を考えているのか分からない無表情な妹に、もっと用心して、言葉を考えて声をかけるし、声をかけるとしても、あいさつ程度だろう...

『...ククッ_嫌いなわけじゃぁないんだぜ?』

『はい、私も...お酒を飲んでいても、ここのみんなは大好きです...』

『...そうかい...ありがとょ...』

彼女の伏せた瞳に、深い深い...誰にも見えない暗い過去が映し出されている...

彼女には大好きな俺達家族を騙してでも
必死に隠したい過去があるのだと思えば...

何も聞くことも、慰めることも出来なかった

唯一できたのは、彼女の嘘に付き合うことだけ...

それだけだった...






「それでは、私はもう失礼します」

てっきり酒は飲めないのだと思っていたが大ジョッキ五杯も飲んで、顔色一つ変えずにそう言って席を立つ妹を、ニコニコと嬉しそうに兄弟達は見送ろうとした

エース一人を覗いては...

「たったの五杯かよ」

フン_と勝ち誇った笑みが彼女の背中にそう言った

「...」

メルがユラリ、と振り返り、エースを視界に入れる

「な...何だよ...」

外野はうるせぇぞエース!%凾ニヤジを飛ばす

エースが口を尖らせ拗ねたような顔をして眉を顰めた時、何かを言おうとした彼女の身体が、横へと揺れた


「ッ!?...メルっ;?」






「ぁ...れ?

離して下さい...っ...

ぁ...あれ?」



慌てて伸ばした手で彼女を支えると、エースの胸に収まるメル

足に力が入らないようでそのまま床に崩れそうになるのを捕まえるが、小さな両手でエースの胸を押す

その力も非力で、戸惑ったように僅かに悲しそうな表情が俺に上目遣いした

「ッ...///」

先ほどの苛立ちも何もかも、一気に吹き飛んで、顔を真っ赤にし、兄弟達のブーイングを無視して、彼女を両手で抱き上げ、脱ぎ棄てていた自分の上着を彼女の頭から被せた

「エースさん...?」

「いいから、じっとしてろ///」

先ほどまで酔った顔などしていなかった彼女の頬はピンクに染まって、大きな瞳は涙目になっていて...

誰にも見せたくないと思ってしまった...


俺はメルを抱き上げたまま、その場を離れた



__________________________________




頭に被せられた服と頭の後ろに添えられたエースの手のせいで視界は全く見えない

宴の声は次第に小さくなり、ドアの開閉の音の後、そっと腕から下ろされた

だが両足は力が入らずに後ろへと倒れ込み
それと同時に頭に被された服はとられ、視界が開ける

バフッ_と言う音と共に座り込んだのはエースの部屋のベッドだった


「...そんな目で見んなよ...心配しなくても、もう妹としか見ねぇよ」

腕を胸の前で組んで、メルを見下ろすエース







彼女を安心させるための言葉だった...


俺はもう...


女として見る事は止めるから...


これからは家族として...











笑顔で...



もう...妹としか...?



彼に...


もう好きじゃないと...



そう言われた気がした...









彼女の潤んだ瞳が俺を真っすぐに見上げて、その表情にどうしても見惚れてしまう...

誰にも見られないでよかった__

気持ちを堪え、そう思って少しホッと息をついたとき...






「...どうせ私は嘘つきです...」

「...は?」

いつもの落ち着いた声ではなく、言葉に悲しみの感情の籠った彼女の声が耳に届いて
俺は間抜けな声を出し、目を見開いた


「記憶喪失は嘘です...」

「...な...;」


突然の告白に言葉が出ない...


感付いてはいた...

何度もそう思わせる場面はあった...


それでもやはり驚いてしまう...


それに...ずっと聞けずにいた...


「なんで...俺の親がロジャーだと言ったんだ...?」


声を詰まらせながらそう言い、口をつむる...


メルは少し考えるようなそぶりをして、また真っすぐに俺をみる...


「曖昧な記憶でしかないので気にしないで下さい...」

「お前今記憶喪失はうそだっつったろ!?」

「あの時は、ただの暇つぶしだったんです」

蘭の家で、本を適当に眺めた程度だったのです...

「誰からの情報なんだよ;!?」

「だから...記憶が曖昧だと今話しました」

焦りにも似たエースの苛立ちの籠った表情に、メルもまた、苛立ちを覚えるのだが睨むわけでもなく平然を装う無表情

「...もういい...好きにすりゃいい...」

何も語る気のないメルに痺れを切らし、エースは呆れたようなため息を吐き、背を向けた









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