再会

□偽りの過去
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「...ッ...メル!...メル!?」



シャンクスさんの声が頭の中で響いた

まるで悪魔にでも追われていたかのように青ざめて目が覚め、ガバリと体を起こし視界を確認する

そこはレッドフォース号の船長室でまだ窓の外は暗く、ベッドに入ってから差ほど時間は経っていないようだ
横にはシャンクスさんが不安と苦悩を浮かばせて私を見ていた...

妙にリアルで、気分の悪い夢だった...


いや...私の記憶だった...


蘭の言葉の意味



本の内容、覚えてる?




曖昧な記憶の断片ではあったが、思い出した...


知らぬ間に頬をつたっていた涙をシャンクスさんが親指の腹で拭ってくれる


私はソレを拒まず、真っすぐに彼を見上げた






「...今すぐ...帰らせて下さい...」





心配になり部屋を訪れるとベッドの上で魘されて眠る彼女を見つけ、エースの名を呼んでいた...


夢の中でさえ、彼女を苦しめるアイツに嫉妬のような怒りが沸き起こった...


なのに...



いつもの無表情ではなく、彼女の真剣な表情が俺を見つめる...




眩暈のような感覚





その後、鈍い痛みが胸の奥底にわだかまり、怒りと嫉妬が沸き起こる...


それはまるで泥沼の水面にのぼってくる汚い泡のように胸に込み上げる



「帰る...だと...?」


彼女が頷いたと同時に、俺は彼女をベッドへ押し倒した

美しく整った彼女の顔が俺を真っすぐに見つめ、俺を信用していると瞳で訴える...



「やめて下さい...」


彼女の赤い唇がそう言うが、俺は聞こえないふりをしてその唇にキスを落とす


何度も...何度も...


彼女の非力な両手が俺の肩や顔を押しのけようともがこうがやめる気はない...


独占欲が雲のように湧いてくる


このままここに縛り付けて、戻りたいなどと言えなくさせてやりたい...


「嫌っ!」


ドン!と懇親の力でシャンクスの身体を両手と片足で押して隙間から逃げ出す


そのまま部屋のドアを荒々しく開けてとにかく逃げ場を探した


部屋を出てすぐに別の船室に入ろうと視界を左右に向けとにかく走った

背後からシャンクスが追いかけてくる気配を感じて甲板を走り適当な部屋のドアを開け素早く締める

だが、閉じようとしたドア板を捕まれ、力任せに引き開けられた


バァンッ!!!


とドアが開けられ、目の前に我を失い飢えた猛獣のような顔をしたシャンクス、その中の瞳がギロリと私を見下ろした


「...逃げるな...」


低い威圧のある声がそう言って、一歩後退るので精一杯で...

シャンクスの手が伸ばされて恐怖に両目をきつく閉じた時、パシッと乾いた音がして、恐る恐る目を開ける


煙草の匂い...


数センチの所まで延ばされたシャンクスの手を、ベンが軽く掴んで、フー_と煙草の煙を吐いた


「...嫌われるぜ?」


「...ぁ...あ...」


落ち着いた声に、シャンクスの表情が青ざめて、ベンからメルへとゆっくりと視界を変える


小さな肩を震わせて、追い詰められた小動物のような怯えた目で俺を見上げるメル...

無理矢理...こんな事するつもりなんかなかった...

好きなんだ______


傍にいて欲しい_



思い浮かぶのは言い訳と都合のいい言葉ばかりで、声を出すことが出来ず、悲痛に表情を歪ませて俯いた...


「...メル、大丈夫か?」


ベンは軽くため息を吐いた後、メルにそう言って肩を引き寄せシャンクスをその場に置いて部屋を出る

シャンクスの背中に、反省しろ_と言葉を残して


__________________________




「...聞いた方がいいか?」


そう言いながら、目の前の机にほろ苦い香りの湯気のでた珈琲が差し出された


ベンに連れてこられたのは彼の部屋で、部屋に二つしかない丸椅子の一つに座りやっと落ち着いてきた気持ちにホッと息を吐いた



「...追いかけっこを本気でしていただけです」


何もなかった。


それが最善の答えだと思った_


わかりやすい嘘ではあったがベンは、そうか邪魔したな_と自分のコーヒーに口を付けた



「そろそろ戻ります、ごちそうさまでした」


私が絶対に飲まない苦そうな黒い珈琲は、彼からのちょっとした嫌がらせだろう

問題事を起こすな_そう言われた気がした...



甲板に出ると朝日が昇り始めたのか空が薄く明るくなってきている

そこに、座り込んで海をボーっと眺めるシャンクス...


まだ、少し怖い...


「すまん...」


すくむ足をどうにか一歩前に出そうとした時、彼の落ち込んだ声がそう言った


「...っ」


彼の背中が、震えている気がして...


自分と同じように、彼も恐怖を感じているのだと思うと恐怖は不思議と和らいできた...



「許してもらおうなんて、思ってねぇ...ただ...やっと...一緒にいられると思ったんだ...だから...っ...好きなんだ、今も...これからも変わらねぇ...」


反省と悲しみと後悔...その全てを交ぜたような歪んだ顔が振り返って、私は僅かにため息を吐いた...


苦い珈琲、頂くべきだった...


赤髪海賊団の船長にこんな顔をさせてしまっては、船員達に何をされても仕方がない



「...追いかけっこ、楽しかったです...シャンクスさんがよろしければ、長期戦にしませんか?今までのように...桃で私を釣るというのはどうでしょうか」


「っ...そりゃ...モモが食いてぇだけじゃねぇのか;?」


「はい、だから今までのように≠ナす」


「......ハ...ハハッ...喜んで...」


シャンクスの疲れたような笑顔が太陽に照らされた


さぁ...戻らなければ...


家族の元へ...



エース...



アナタの元へ















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