再会

□それは偽物
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中へ入ると先ほどの熱のせいで船内は蒸し暑い空気が流れていて、廊下の床ではクルー達が床に倒れていた

出入り口のドアを開けたままにすると外の涼しい風が船内に吹き込んでシャチとペンギンの下敷きになっていたベポが最後の力を振り出したかのように顔を持ち上げた


「キャプテーン......んあぁっ!誰ソノかわいい子!」


今の今まで瀕死の熊のような虚ろな目をしていたのにいきなり生気を取り戻し起き上がって駆け寄りメルと俺を交互に見やるベポ

その背景でペンギンとシャチが床に落とされ唸りを上げているが死んではいないようだ


「メルだ...お前ら、いつまでも倒れてねぇで船の故障がないか調べて来い、すぐに経路変更だ」



「アイアイサー!」


元気よく返事をしたのはベポだけだったがペンギンやシャチもすぐに立ち上がりキャプテンの指示に従い機敏に動き始める



「俺の部屋で待ってろ、すぐに戻る」


ローは私を部屋へと連れてゆき、ビブルカードの針路を追うため部下に指示をしに行ってしまった


この部屋は薬品の臭いがする...

棚には薬草が透明の瓶に詰められ綺麗に並べられているし、別の棚には医療器具...

ちょっとしたキッチンにベッドに...何でもある...


ここは...船医室...?


しかし、彼は“俺の部屋”と言った...


医者なのだろうか、それとも医者になりたい人なのだろうか...


メルは部屋を見渡してベッド脇の本棚を見つけた、その中から一冊を適当に選び、一人掛けのソファーへと腰を下ろした


パラパラと文章を見ずにページを飛ばし見る、時折モノクロの写真や挿絵が書かれているがどれも同じような草の挿絵に写真...


「.........」


興味もないのに何かしていないと落ち着かない...

こうしている間にも、エースが海軍に見つかり捕まってしまっているかもしれない...

僅かな溜息を吐いたとき、船が振動し始めた




「薬学に興味でも?」


いつの間に部屋に戻っていたのか、声の主であるローはソファーに座るメルを背後から見下ろすようにして立っていた

ローの声に少々驚いたがそれは指先が一度ピクッと痙攣しただけで表情には現れなかった


「いいえ」


ローを見上げ本を閉じ目の前のテーブルへと伏せる

外した視線の隅に、ビブルカードが差し出され、それを受け取り大事そうにポケットへと戻した...



「誰を追ってる?」


「追いつけばわかることです...紅茶を頂いても?」


「...あぁ、その棚の右端だ」


違和感は彼女の感情のない表情...

何を考えているのかさっぱりわからない、まるでマネキン人形のようだ...


“私に質問しないで”

そう訴えている気がした...

まるで不透明な薄皮のようなモノが彼女全体に被されていて...
質問を拒んでいる...


席を立つ彼女は非日常的な美しさで、その後ろ姿でさえも見惚れるほど...


今まで俺は、こんなにも儚げで、心に潤いをもたらしてくれるような異性に出会ったことはあっただろうか...


そこまで考えて、フッと視線を窓際の机へと変えた

俺はさっきこの女に殺されかけたというのに...のんきなもんだ...



自身に呆れた、と肩を降ろし窓際の席へと座り海中を映す窓の向こうを見つめる

澄んだ海中には深い青に時折鮮やかな色をした魚が通り過ぎる...

沸々と湯の沸く音がして、部屋に茶の香りが立つ...

いつもの紅茶よりも甘く香り高く思える...


「ローさんもどうぞ」


「いい色だ」


ティーカップには淡い赤色をした紅茶...

温かな香りが部屋に漂いくつろいだ雰囲気を作り上げた

彼女も俺の背後にある一人掛けのソファーへと腰かけ紅茶を飲んでいるようだ


「...モモ?」


「ん?」


彼女の呟きに振り向くと彼女は何口目かの紅茶を縁へ含んで喉の奥へ通し、俺を見た


「ピーチティーですか?とても美味しいです」


「.........」


彼女の言葉に、何のことかと思ったが、一瞬にして全身の血が引いていくような焦りに襲われた


まさか


視線を彼女から戸棚へと向け、紅茶の瓶が目に入る

そしてキッチンには...薬草の瓶...



ガシャンッ!


彼女の手からティーカップが滑り落ち派手な音を立てて床へ割れ落ちた

彼女が飲んだのは、毒...



「すみません...なんだか...ボーっとして...」


乾燥させ、そのまま粉末にし傷口に塗り込めば薬になるが
茶のようにして飲めばそれはたちまち毒へと姿を変える...



幻覚や幻聴、気分が良くなり目が冴える...

症状は薬物と同じだ...


床に落ちたティーカップ、液体を見ると半分は彼女の体に入ってしまっているだろう...

運良く俺はまだ一口も飲んではいない



「少し休めばいい」


「いえ...眠くはないので...」



眠くはない、だが、夢の中へと引きずり込まれるような...

まるで...朦朧の意識が靄のように視界を包み込んで行く...


「何が見える?」



ローの声が二重になって...

その声に視線を持ち上げて...




花が咲くかのように唇をほころばす彼女...

幻覚の映る瞳を俺に向けて、幸せそうに、愛しげに囁く








「やっと見つけました......」








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