再会
□ハルシネーション
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エースを客間に置いたまま、ローはメルの待つ部屋へと向かった
ドアを開けるとベッドに腰かけた彼女が俺を真っすぐに見つめる
数分前、彼女は俺をエースだと勘違いして、その唇さえ捧げても構わないというように瞳を閉じた...
それを思い出すと彼女を直視することが出来ず不自然に視線を逸らした
「待たせたな」
「...?」
やんわりと笑みを浮かべて言ってみたが、彼女がその感情のない無表情を傾けた
俺の笑顔がぎこちなく苦笑いになっていたのか、それとももう薬の効果が切れて“コイツ何言ってんの?”って表情なのかわからない
ローは後ろ手にドアを閉めながら同じように首を傾けるような返事しか出来ずその場に立ちすくんだ
だが、彼女の顔が元の位置に戻り、無表情のままの顔が視線を逸らせた俺の瞳を追いかける
「蘭さん...おかえりなさい」
...また別の奴か_
彼女の薬はまだその効果を切らしておらず、今度はローを蘭だと勘違いしているようだ
「...あぁ...ただいま」
俺が俺の姿で彼女の瞳に映るのはまだ先のようだ
ローは残念そうに眉を潜めたが、メルに怪しまれてはいけないと思いすぐにポーカーフェイスを作り上げ部屋のソファーへ腰を下ろした
「私、思い出しました...エースさんを守ります...」
なんの話だかサッパリ分からないのだが...
無表情だが彼女の視線が斜め後ろからしっかりと俺にぶつけられている
「あぁ...おぅ...そうだな」
「...いつもありがとう」
エースと思い込んでいた時とは違い、彼女を包むオーラが安心感に満ち溢れている...
ローは心の奥に僅かな嫉妬心を感じながらも彼女へと視線を向けた
「眠くはないか?」
「...えぇ、全然...そのセリフ、初めて会った時にも聞きました、あの時も今日のように眠気なんか全然ないのに、蘭さんは...自分が眠いからと...言ってましたね」
メルは昔を思い出すようにして言葉を紡いでゆく「そうだったか?」と答えると彼女は「そうでした」と変わらぬ表情で言い、言葉を続ける
彼女の声は本当に感情がこもっていなくて、それでも、その声色は優しく、心地よく感じてしまう...
ローはその続きを催促するようにソファーへもたれて「それで?」と言いながら瞳を閉じた
「それで......蘭さん...あの日、私がストーカーに追われて、逃げているところを助けていただいた日、蘭さんの家に泊まらせて頂き...ココアをもらって、先に蘭さんが眠ってしまって...それで...朝になって...」
彼女の言葉の節々で、うん、だの、へぇ、だの返事を返すうちに本当に眠くなってきた、ぼんやりと霞む意識の中、彼女が微笑を浮かべているような気がした
「なぁ、そっちで寝ながら聞いてもいいか?」
「はい...それでその時蘭さんが_」
ソファーから立ち上がりベッドへ移動する間も昔話を続ける彼女
これも薬のせいだろう...普段よりも口数が多くなる、それは今の自分がいつもと違っていて変な気分で不安だから声を発してそれをかき消そうと彼女自身が努力している証...
彼女が腰を下ろすベッドへ潜り横になると「それで?」と彼女の髪を片手でいじりながら続きを催促する
「その時も、布団がないからと同じ布団で眠りました」
「ふぅん...」
言葉をやり取りしながら、彼女も同じ布団に潜り込んできた、それを拒否することもせず、迎え入れてまだ話し足りなそうな彼女の頬に掛かる髪を後ろ髪へすき下ろした
微笑んだと思った表情はもう元の無表情で俺を見上げる
彼女の瞳には...蘭という奴が映っているようだが...